元ハンセン病患者の家族への賠償を国に命じた熊本地裁判決について、安倍晋三総理は7月9日、「異例のことだが、控訴をしない」と表明した。患者家族に寄り添う素晴らしい判断だと称賛したいところだが、そう素直には受け取れない。
もし、本当に家族のことを思うのなら、国のこれまでの過ちを率直に認めて謝罪し、他の訴訟で争っている家族や、今回の地裁判決で請求を棄却された2002年以降に被害が明らかになった20人についても、損害賠償を行う方針を示すのが筋だからだ。
今回の安倍総理の発言を見ると、あくまでも、上から目線で、「可哀そうだから救ってやる」という姿勢を示したように見える。
「異例」の判断をしたのも、参議院選挙中に「控訴」と報道されれば、「安倍総理は弱者に冷たい」というイメージが広がり、野党に攻撃材料を与えてしまうと心配したからではないのか。
こうしたことを書くと、安倍総理信奉者からは、「せっかくいいことをしたのに、歪んだものの見方をするな!」としかられそうだが、そういう見方をしたくなることがほかにもあった。
それは、福島の人々に寄り添う姿勢を示すために行った安倍総理の参院選公示日の第一声だ。
それは、福島の果樹園で行われた。
実は、安倍総理には大罪がある。第1次安倍政権下の06年12月、共産党議員の質問主意書で、地震などにより外部電源が止まった場合に非常用電源喪失による冷却機能停止のリスクがあるという、まさに福島第一原発事故を想定したかのような警告に対して、「御指摘のような事態が生じないように安全の確保に万全を期している」と完全に無視する答弁書を閣議決定したのだ。
つまり、根拠なき「安全神話」に基づいて漫然と危険な原発の稼働を認めて巨大事故を起こすという取り返しのつかない過ちを犯したことになる。普通なら自責の念に駆られるはずだが、安倍総理は、これまで、自らの過ちを認めず、謝罪もしていない。本来、福島の人々に寄り添うというのであれば、まずは自らの過ちを認めて謝罪するところから始めるべきだろう。