アルバムの幕開けを飾る「ヒッチハイキン」は“わずかな荷物と歌だけを携え”ヒッチハイクで流浪の旅を続ける男が主人公。乗せてくれた一家やトラックの運転手の様や、改造車に乗ったスリルが歌われる。
ギターとバンジョーだけの簡素な演奏に、ストリングスの調べが重なり、広大な情景が浮かび上がってくるあたり、ブルースの意図が明確にうかがえる。
「ザ・ウェイフェアラー」は、家庭を持ったもののその閉塞感から逃れ、真夜中にハイウェイを疾走し、町から町へとさ迷う“さすらい人”が主人公だ。
「トゥーソン・トレイン」は、クスリや雨にウンザリとし、落ち込んでしまったサンフランシスコから逃れ、照り付ける太陽のもとで労働に励む男。以前とは変わった姿を見せたいと、別れた恋人との再会を待ちわびる様が歌われる。
表題曲の「ウエスタン・スターズ」は“一度ジョン・ウェインに撃たれたことがある”ことが自慢の老いぼれた大部屋役者の、酒に溺れる日々が歌われる。表題は夜になると輝く“西部の星”に、“西部劇の星”というかつての思い出が重ねられる。
「ドライヴ・ファスト(ザ・スタントマン)」でも向こう見ずな生き方をしてきたスタントマンの人生模様が歌われる。
「スリーピー・ジョーズ・カフェ」は、陸軍のコックが、第2次大戦後に退役し、開いた店が舞台。ハイウェイが傍を通るようになって以来繁盛してきた店の賑わいが描かれたものだ。その演奏、サウンドはテックス・メックス風。アメリカの南西部を背景にした歌だと明らかになる。
「チェイシン・ワイルド・ホーセズ」に「サンダウン」。前者は子供のころから癇癪持ちで家を飛び出し、モンタナの州境で土地管理局の仕事についた主人公の別れた恋人への断ち難い思い、後者では遠く離れた恋人を思う孤独な心境が描かれている。
「サムウェア・ノース・オブ・ナッシュヴィル」は成功を夢見てナッシュヴィルにやってきた男。その夢も破れて別れた恋人への思い、後悔の念を歌にするという話だ。
アルバムを締めくくる「ムーンライト・モーテル」は、寂れたモーテルの跡地で、かつて通った過ぎ去った日々、恋人への思いにかられる様が歌われる。
個人的な体験にもとづく自伝的な曲を手がけることの多いブルースだが、本作では様々なキャラクターを設定し、人間模様、人生の歩みを描き出している。
主人公の心情の機微を簡潔な表現で描き出すストーリー・テリング的な曲作りの巧みさと同時に、歌のうまさ、味わい深さに心うたれる。シンガー・ソングライターとしてのブルースの存在を再認識させる傑作だ。(音楽評論家・小倉エージ)