ブルース・スプリングスティーンのニュー・アルバム『ウエスタン・スターズ』が味わい深い。生ギター、ピアノとともにストリングスやホーンを起用した演奏をバックに、ブルースは穏やかな歌を披露している。
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かつて『レッキング・ボール』の発表後もツアーが相次ぎ、旧作の新装再発や自伝の執筆、自伝的な内容のブロードウェイ公演のロング・ランなどもあって、制作が延期されていたものだ。
本作についてブルースは「キャラクター主導型の曲と、シネマティックなオーケストラのアレンジを特徴としていた僕のソロ作品への回帰」であり「宝石箱のようなアルバムなんだ」と語っている。
音楽的には「70年代の南カリフォルニアのポップ音楽に影響を受けている。それが僕が心に描いたものだ。1枚のアルバムをまとめる特別なもの、作曲へのインスピレーションをくれたんだ」とも。
先行シングルの「ハロー・サンシャイン」は、ブルースの言葉を裏付けるものだった。ジミー・ウェッブ作詞、作曲、グレン・キャンベルの歌でヒットした「ウイチタ・ラインマン」、他にニルソンの「噂の男」なども思い起こさせる。
本作ではギター、ピアノ、ストリングス以外に、随所でスティール・ギターがフィーチャーされているが、カントリー風のそれとは異なる。60年代後半から70年代にかけてのカントリー・テイストを織り込んだポップスに通じる。
収録された大半の曲の舞台はアメリカの西部や南西部。アルバムの表題やスウェーデンの写真家カル・グスタフソンの馬の写真を起用したアルバムのカヴァーもそれにちなんだものだ。
かつてブルースが初めてアメリカ大陸を横断した際、目の当たりにした西部の光景に感動したことは自伝に記されている。もっとも本作の収録曲はブルース自身の体験を描いたものではない。
プレス・リリースによれば「ハイウェイと荒涼とした空間、孤立感とコミュニティ、そして家庭や希望の不変性といったアメリカ的なテーマを広範囲に網羅している」とのこと。様々なキャラクター、それも多くは年老いたと思われる人物を主人公とし、それぞれの思いや人生模様などが描かれている。