『ケリー・アット・ミッドナイト』(Vee Jay)
『ケリー・アット・ミッドナイト』(Vee Jay)
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●名演の影にケリーあり

 バド・パウエルを始祖とするいわゆる「パウエル派ピアニスト」は、ちょっと数え上げただけで、トミー・フラナガン、ケニー・ドリュー、ソニー・クラーク、バリー・ハリス、ハンプトン・ホーズなど、たちまち数人の名が挙がるが、中でも早くからオリジナリティを確立させたのがウイントン・ケリーではなかろうか。

 彼はマイルス・デイヴィス・グループのピアニストとして名を上げたが、いわゆる「ハードバップの名盤」に少なからずサイドマンとして参加しており、名演の影にケリーありはファンの常識となっている。 これも思いつくまま挙げてみれば、ウエス・モンゴメリーの『フル・ハウス』(Riverside)、ハンク・モブレイの『ソウル・ステーション』(Blue Note)、ブルー・ミッチェルの『ブルース・ムーズ』(Riverside)など、どんな楽器が相手でも、相手に寄り添いつつ自らの聴かせ所を用意できる卓越した才能を見せている。

●ウイントン・ケリーの魅力

 それではウイントン・ケリーの魅力はどこにあるのだろうか。まず、ノリの良さ。これはすべてのパウエル派ピアニストに共通しているといってもいいが、ケリーの演奏は軽やかなリズムに乗ってフレーズが華麗に流れてゆき、聴くものを自然とリラックスさせてくれる。

 続いて、旋律に漂う一抹の哀感が日本人の心情にジャストフィットなのだ。ハッピーな曲想ではあくまで軽快なケリーがふと見せる翳りが、彼のピアニストとしての魅力を深めている。そうした彼の魅力を混じりけなしに堪能するにはピアノ・トリオが一番なのだが、50年代60年代のアメリカでは特別なケースを除いて「ジャズは管楽器が入っているもの」という、考えようによってはまっとうな常識が幅を利かせていたので、ケリーのトリオ作品は極端に少ない。

 そうした中、衆目の一致する彼の代表作がこのアルバムで、パウエル派ピアニストの最高峰であるウイントン・ケリーの魅力が見事にこの1枚に結実している。冒頭の彼のオリジナル作品《テンペランス》の小気味良い展開、そして、時折現れるマイナーな気分が演奏に彩を添えている。まさしく名盤だ。

【収録曲一覧】
1. テンパランス
2. ウィアード・ララバイ
3. オン・ステージ
4. スケーティン
5. ポット・ラック

ウイントン・ケリー:Wynton Kelly (allmusic.comへリンクします)

ピアニスト/1931年12月2日 - 1971年4月12日