「明るくていつもHAPPY」な慎吾ちゃんが、新作映画「凪待ち」で、次々に不幸に襲われる哀しい男を演じた。俳優としてアイドルとして、刻一刻と変わり続ける表情を写し撮った。
【写真特集】「黒しんごちゃん」VS「白しんごちゃん」? この振り幅がすごい!
香取慎吾さんといえば、「いつも明るく元気いっぱい」の印象が強い。だが、最新の主演映画では、恋人に死なれ、自暴自棄になってギャンブルに狂う男、木野本郁男を演じる。香取さんのファンにとっては、目を覆いたくなるような衝撃的なシーンもある。
「確かに僕がこれまで演じてきた役や僕自身のイメージとはまったく違うかもしれません。でも、人間って、いろんな面がある。尊敬する白石和彌監督の作品に出るからには、役になりきろうと一生懸命に演じました。監督の作品の一部になろう、と」
ひどく不幸な役なのに、演じていてつらくはなかったという。
「“演じている”“やっている”という感じが不思議としなかったんです。自然と郁男になれた」
主人公を次々に襲う悲劇の中、唯一の救いが、死んだ恋人の父親と、恋人の高校生の娘と心を通わせる場面。どんなに裏切られても郁男を信じる2人との関係は、「何があっても僕を応援してくれるファンの方との関係と同じだなと思って。血のつながりもない、赤の他人なのに、ここまで……っていう。ファンの方への感謝の気持ちを改めて感じました」。
個性的な共演者の中、香取さんと奇妙な関係を築く小野寺修司役でリリー・フランキーさんも出演する。
「リリーさんとは20年以上前に、草なぎ(剛)とやっているラジオの放送作家として知り合ったんです。それがいまは素敵な俳優さんになって。そんなリリーさんとだから、やりやすかったです。緊張がほぐれた」
共演者、監督とは、クランクイン前日にお酒を酌み交わしてから、地方で撮影に入った。長く芸能界で仕事をする中で、そうした機会は「まず、なかったですね」。
アイドルとして多忙を極める日々では、撮影日に現場に入って、撮影日にすぐに帰るのが当たり前だったからだ。今回の映画では、「リリーさんがビールを買って宿泊先のロビーで待っていてくれて」。白石監督とも、膝をつき合わせて話すことができた。
「それがよかったかも。映画の前に監督にオファーの理由を正面から聞いたり。そんなこと、なかなかできませんよね」
単独主演の映画は、「新しい地図」としてスタートしてから初めてとなる。
「僕が出ているからという理由がなくても、いい映画だと客観的に思える。白石監督の世界を感じてください」
(本誌・工藤早春)
※週刊朝日 2019年7月5日号