第一級のテクニックの持ち主でありながら、フレディ・ハバードの評価は微妙なところがある。世代、音楽の好みがかなり影響しているのである。いわゆるフュージョン世代は神格化するほどなのに、もう少し年かさのレトロファンは70年代ハバードを“堕落”と見なす。私なども堕落とまでは思わないけれど、60年代新主流派時代のハバードをひいきしがちだ。結果として、ハバードは「ものによっては」という但し書きが付いた上での、トランペット・キングなのである。
お断りしておけば、まさにものによっては70年代以降でも気合、根性十分のハバード盤があるので、バッサリ時代で判断するのはいかがなものかとは思うけれど、ジャズ入門者の「最初の1枚」としては、ハバード初リーダー作にして最高傑作と言って差し支えない、60年録音のこのアルバムをオススメしたい。
ハバードの快調なトランペットと、マニア好み、ティナ・ブルックスの渋いテナー・サウンドの組み合わせが『オープン・セサミ』の魅力で、ハードバップ・ファンなら文句無く彼らの世界に入っていける。それにしても、初リーダー作でこれほど完成度の高い作品を残したミュージシャンというのも少ないだろう。
60年代ハバードはサイドマンとしても多くの好演をブルーノートに残しており、この時期、明らかにリー・モーガンを継ぐ次世代トランペッターとして注目されていた。思い付くまま挙げてみれば、新主流派の代表作でもあるハービー・ハンコックの『処女航海』、ハードバップ・ファンならご存知、ハンク・モブレイ『ロール・コール』、地味なところではボビー・ハッチャーソンの『コンポーネンツ』など、どれもフレディあってのアルバムといえよう。
ここまで書いてきて、言いっぱなしでは判断に困るだろうと思い直し、70年代推薦盤も挙げておこう。まず、72年ちょっと珍しいMPS録音の『ザ・ハブ・オブ・ハバード』はストレートなハバードの傑作。そして、70年代の話題をさらった一連の「V.S.O.P.もの」も第1作『ニューポートの追想』(Columbia)など、やはり快演だ。最後に、90年代に入っても、ノレば凄いところを見せたのが2枚組みCD『フレディ・ハバード・ライヴ・アット・ファット・チューズディ』(Musicmasters)で、このあたりを聴けば、やはりハバード侮りがたしを実感されることだろう。
【収録曲一覧】
1. オープン・セサミ
2. バット・ビューティフル
3. ジプシー・ブルー
4. オール・オア・ナッシング・アット・オール
5. ワン・ミント・ジュレップ
6. ハプス・ナブ
フレディ・ハバード:Frederick Dewayne Hubbard (allmusic.comへリンクします)
トランペット:1938年4月7日 - 2008年12月29日