二つ目に昇進して同じ会場で「月一・ネタおろし二席」の勉強会を一人で始めた。20回やって毎回30人くらいは集まるようになり、思いきって会場をキャパ100人のホールに変えた。チケットなぞ刷らず、チラシに自宅(!)の電話番号と携帯のアドレスを載せて予約を受け付ける。木戸銭は全て当日精算。後輩に手伝ってもらい会場設営、自分も受付に立つ。新規のお客さんも増えてきた。予約したのに当日来られなくなった人は「ごめんなさい! 行けなくなっちゃったけど頑張ってください!」と事前に電話をくれた。

 2012年に真打ち昇進が決まり、50日間の披露興行のチケットおよそ5千枚を私が預かった。常に持ち歩きいたるところで直売。ご祝儀をつけて買ってくれる人もいれば、「1枚しか買えないけど必ず行きます」と言ってくれる人もいる。終演後に出待ちしてくれて「半券にサインしてください!」というお客さんも。自分で手売りしたチケットにサイン。チケットを通じてお客さんのありがたみがよくわかった。

 今、自分の会のチケットは全てサイトや会場窓口など他人に委ねている。私は売れ行きの心配をせず当日落語をするだけ。こんな幸せなことはない。ただ転売によるであろう空席を見るとホントにつらい。神よ、転売ヤーに天罰を。

 翻って、私ももうチラシに電話番号載せてた頃には戻れないけども、チケットを買ってくれた人の顔を思い浮かべて高座に上がらないと罰が当たるな、と思います。

週刊朝日  2019年6月21日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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