高齢者には免許を手放したくない人も多い。心配する家族が説得しようとしても、なかなか聞いてくれないケースも目立つ。

 高齢ドライバーの問題に詳しい伊藤安海・山梨大工学部教授は、60代のまだ元気なうちから自主返納を計画すべきだという。

「60歳を過ぎて定年退職するのをきっかけに、多くの人は老後の人生設計をします。その際に免許の返納についても、考えておいてほしい。運転できなくなったらどういう交通手段を使うのか、暮らす場所を移るべきなのかなどを、検討しておきましょう」

 事故が相次いでいるいま、家族としてはすぐにでも免許を返納してもらいたいが、運転能力の低下は個人差も大きい。長年運転してきた人のプライドに配慮も必要だ。

「返納すべき時期は人それぞれで異なるため、一概に年齢で決めるのは難しい。65歳で運転能力が低下している人もいれば、80歳を過ぎても安全運転ができる人もいます。本人には能力の低下はわかりにくいので、同乗者が客観的にチェックすべきです」

 チェックリストを参考に、どこまで能力が落ちたら返納するのか、家族で相談して事前に決めておくようにしたい。

 自主返納すれば割引が受けられるサービスも増えてきた。バスやタクシーの利用券を配る自治体もある。返納するともらえる「運転経歴証明書」を示すと、帝国ホテル東京では直営レストランなどが1割引きになる。ほかにも地域ごとにたくさんのサービスがあるので、自治体や警察のホームページなどで確認しよう。

 自主返納は18年で約42万人と増加傾向だが、地域差がある。公共交通が充実していない地方では、車がないと生活は不便だ。

 ニッセイ基礎研究所の村松容子・准主任研究員によると、75歳以上の免許返納率は5%程度。都道府県別で見ると、最高は地下鉄などが発達する東京都8.2%。最低は高知県の3.8%で、東京都と2倍以上の開きがある。

「免許の自主返納率を高めるには、身体能力の衰えに気づいてもらうことに加え、代替するサービスがあることを知ってもらうことが必要です。公共交通の不便な地域では、そのままでは返納率を高めるのは難しい。運転をやめ歩行や自転車などで移動することで、より危険性が高まることも考えられます。公共交通の整備や交通弱者を守る対策など、行政がやるべき課題は多いのです」(村松さん)

 返納を促すといっても簡単ではないことが、わかってもらえただろう。行政も遅ればせながら対策に乗り出している。私たちができることは、あきらめずに高齢ドライバーを説得していくことしかない。取材をもとに、返納を促すときに守るべき7カ条をまとめた。

【返納を促す7カ条】
○本人は運転能力の衰えに気づきにくい。家族や同乗者が説得を
○無理強いして相手のプライドを傷つけない。じっくり話を聞く
○返納は計画的に。退職などを契機に、いつ運転をやめるか考える
○歩くことで長生きできるなどのメリットを強調。家族の協力も約束
○車がなくても公共交通で対応できることを説明。タクシーの活用も
○運転以外に気晴らしできる趣味を持つ。家族も一緒に趣味を楽しむ
○納得してくれないときは医師や警察官ら専門家に相談。助言してもらう
(専門家への取材や自治体のホームページなどをもとに編集部作成)

(本誌・秦正理、岩下明日香、多田敏男)

週刊朝日  2019年6月21日号

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