「個人資産からの引き出し額が180万円、退職後の生活年数が35年だから一番上の式から『自助努力で用意する退職後の資産』は6300万円になります。運用しないとすると、この金額を60歳時点で用意する必要があります。年収倍率でいうと9.6倍です」

 退職金で年収2年分を確保できるのなら、年収倍率は7.6倍に下がる。

「運用する場合は複雑ですが、私がいつもやる方式で考えてみましょう。すなわち最初の15年間を3%で運用しながら4%分を引き出して過ごし、その後の20年間は運用せずに定額を引き出していくやり方です。これだと約4400万円が60歳時点で必要になります。年収倍率は6.7倍です」

 金額といい年収倍率といい、かなりの高額ではないか。フィデリティ方式は現役時代最後の生活水準が基本なので、かなり余裕をもった試算といえるが、それを割り引いても高いハードルに見えてしまう。

 積み上げ型だと「破綻」が見え、必要総額では「見上げる壁」が出現する──どうやら、100年時代のお金は足りないケースが大量発生する可能性がある。

 何だか頭がクラクラしてきたが、これで終わらないのがこれからの日本の高齢社会だ。ここまでの試算(フィデリティの若年世代向けを除く)は、現在の制度がそのまま将来も続くことを前提にしているからだ。

 社会保障の負担や給付、税の仕組みなどは、高齢者にどんどん厳しくなっている。この傾向は今後も変わるまい。

 例えば、高齢者の収入を支える公的年金では、年金の実質価値を下げる支給抑制策が進行中だ。「マクロ経済スライド」といわれるもので、本来なら年金は現役世代の賃金や物価に合わせて伸びるが、その伸びを年金だけ小さくする。

 高齢者にとっては痛いが、ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫主任研究員によると、

「年金をもらっている人に薄く広く負担してもらうもので、不公平が発生しにくい。年金財政の改善策としては保険料の引き上げもあり得ますが、これだと受給者は関係なくなってしまいます。『勝ち逃げは許さない』という意味でも、私はいい制度だと思います」

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