東京商工会議所は、混雑が予想される地区の8割以上の企業から「協力に前向き」というアンケート回答を得た。一方で、大会期間中に夏季休暇を設定できるかについては「できない」「わからない」が82.9%に上った。「17年のアンケート結果と比べて前向きな回答は微増したが、まだまだ企業への意識付けは不足している」と同会議所の担当者は認める。大混雑の懸念は解消されていない。

 大混雑するのはホテルも同様だ。みずほ総研は昨年10月、東京五輪が開かれる来年8月は都内で最大約1万4千室不足するという報告をまとめた。みずほ総研経済調査部の宮嶋貴之・主任エコノミストは指摘する。

「20年の日本の宿泊客数について、外国人は右肩上がりに増え、人口減少が続く日本人も高水準を維持する。なおかつ、12年ロンドン五輪のようなケースが起こる。そうなれば、計算上、宿泊場所は不足する」

 同五輪が開かれた12年8月、ロンドンを訪れた英国人の割合は大きく上昇し、同年7~9月の外国人の割合は低下した。五輪観戦などで英国人が集中して訪れたと見られる。同様に、大会期間中に日本人が集中して東京を訪れれば、都内のホテル部屋数が足りなくなるというのだ。

「五輪を観戦したいという国民はもちろん、ボランティアや警備の人員も集まり、開催期間は宿泊料も高騰すると見込まれる」

 そのボランティアは計13万人。組織委は、宿泊は自己負担、自己手配としており、宿泊先の情報提供については検討中だという。

 不足解消に一役買うのがホテルシップだ。政府が議論を進め、昨年3月には横浜港や東京港など4港5カ所が、東京湾で実現可能な場所として挙げられた。

 このうち横浜港山下埠頭(ふとう)では大会期間中の来年7月23日~8月9日に、大型客船「サン・プリンセス」(約7万7千トン)のホテルシップ実施が決定している。2022人(客室数1011室)が宿泊できる。

 また、空き家や空き部屋を貸し出す民泊の活用も期待されている。自治体が自宅を民泊に提供する住民を募集する「イベント民泊」の制度もある。ただ、現時点で各自治体が踏み切るかは未定だ。

 五輪も見据え開業ラッシュが続くホテル業界。一方で深刻な人手不足に陥っている。ホテルに特化した人材サービスを展開するエイチエーコンサルティングの山本哲代表取締役は言う。

「潜在的に不足しているのは清掃。ハローワークで募集したり海外の方を雇ったり。フロント係などについても、やはり新規のオープニングはそれなりに人を集める力がありますが、経験者がそこに入れば、辞められたところは“玉突き”で募集しなければならない」

 既存のホテルもあと1年で必要な人材をそろえられるのか。「パニック」を最小限に抑えるには、早めの対策が肝心だ。(本誌・羽富宏文、秦正理、緒方麦)

週刊朝日  2019年6月7日号

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