お付き合いが始まり、3年くらい交際して、結婚することになったんです。日活からは「まだ早い」と引き留められましたけど、気にはしなかったですね。「仕事は続けます。ただ、1年間は世界各国をまわる新婚旅行に行かせてください」とお願いしました。
――互いにわりと温和な性格で、1年間に及ぶ新婚旅行中も、ケンカをしなかったという。
結婚前から女優の仕事を続けていい、と言ってくれましたし、いまもいろいろ気遣ってくれます。
彼の仕事は午後から夜にかけて行われることが多かったので、私が朝早い仕事のときは起こさないようにそーっと帰ってきたり、家にいてもそーっと静かにしてくれています。
結婚による仕事への変化は、あまりなかったと思います。39歳で長男を出産したときには少しお休みをいただきましたが、翌年4月には、テレビ番組のレギュラーとして完全に復帰しました。
――仕事も子育てもしっかり両立させる。いまで言うワーク・ライフ・バランスを、80年代から自然に実践してきた。
そんなに深刻に捉えない性格なんですよね。だから悩まないし、役を引きずったりするタイプでもない。監督の言うことを聞いて素直にやります。
最初からそうだったので、いまでも監督に「こうしてほしい」と言われるほうが安心できるんです。最新作「長いお別れ」の中野量太監督もそういう方だったので、昔の日活時代の監督のような感じがしてやりやすかったです。
――映画「長いお別れ」は原作者・中島京子さんの実体験をモチーフにした作品だ。松原さんは、認知症を患い日々変わってゆく夫(演じるのは山崎努さん)を、2人の娘とともに支える妻・曜子を演じる。
認知症という題材をあたたかく、ユーモラスに扱った、とてもすてきな作品なんです。
でも最初に脚本を読んだ瞬間は、ものすごく胸にドン!ときてしまった。認知症や介護、別れ……これから自分たちが進む未来そのものが描かれているようで、ちょっと落ち込んでしまったんです。