ぽんぽこ書房の文芸誌「小説玉石」の編集部員は、ワンマン社長から休刊を告げられる。入社6年目のコン藤リンを中心に、休刊を覆そうとする部員の奮闘からこの漫画、『ぽんぽこ書房 小説玉石編集部』(光文社、1000円※税抜)は始まる。
「出版界でも文芸の編集者は特殊で、黒衣の度合いが高い。どんな仕事なのか私自身が知りたかったし、読者も知りたいんじゃないかと思いました」
と作者の川崎昌平さん。
やはり編集者を主人公にした『重版未定』に続いて、文章だけより親しみやすい漫画で表現した。川崎さんは内容に合わせて文章も絵も描くことができるのだ。
キャラクターはキツネ、ブタ、カッパなどの姿をしているが、内容はリアル。この漫画を連載していた「小説宝石」の担当者に取材し、文学賞の受賞パーティーで作家に話を聞いて文芸編集者の日常を描いた。
作家からいい原稿が届けば編集者をやっていてよかったと涙を流し、行き詰まった新人作家を励まし、ときに缶詰めにし、ベテラン作家の釣りに付き合う。
要所要所に詳細な注があるので、「ゲラ」「印税」といった業界用語、何部売れたらヒットなのか、文芸誌の役割、作家と編集者が文学賞の発表を待つ「待ち会」など、出版界、文芸界の仕組みがよくわかる。
さらに一話ごとに、著者が自分の漫画について文章で解説を加えている。
「自分の作品にのめり込まないのが私の特技。いつでも突き放せるんです。だって編集者ですから」
川崎さんはデザイン系の会社で美術書や広報誌の編集をしている。文芸という異なるジャンルを取材してひかれたのは、著者と編集者がひたすらいい作品を目指す姿だった。
当たり前のことのようだが、出版界では売り上げのため、刊行点数を稼ごうと急いで本を作ることも少なくない。
「小説は一人の作家が書いて一人の編集者が受け止めて、コツコツ作っていく。お金がほしかったら、みんなこの業界にいませんよ。作品をいちばんに置く。その当たり前を再確認できたのが、描いていていちばん楽しかったところです」
編集の仕事のほかにも、大学で日本文学を教え、夜11時からの2時間で漫画や本を執筆している。小説は学生時代から書き続け、文藝賞の最終選考に残った作品もある。パソコンには未発表の長編が8作、短編が50作、企画書とプロットが100本以上入っているそうだ。
「きのうまでなかったことをやろうとしている人が好きなんです。自分もきのうと違うものを作らなきゃということですね」
文芸畑の取材を進めるうちに、経済効率からすると将来が危ぶまれる文芸の世界を守り、そこにある熱い火種を残したいと思うようになった。
より多くの人に知ってほしくて、ソフトカバーにして本の価格を下げた。川崎さんの熱意から生まれたぽんぽこ書房。本好きのための熱気あふれるお仕事漫画だ。(仲宇佐ゆり)
※週刊朝日 2019年5月7日号