ではいったい『気になる人』とはどんな人のことを指せばよいのか。好きとか嫌いのレベルに達していないが、なぜか心や頭の片隅にこびりついている人。まだあまり情報を知り過ぎていないというのも大事です。さらに、できれば『世間もなんとなく気になっている人物』の方が、この手の質問の回答としては喜ばれます。

 以上の条件を胸に、己の記憶と向き合うこと数時間。とっておきの『気になる人』を思い出しました。NHKの5分番組『みんなで筋肉体操』で筋肉指導(インストラクター)をされていた谷本道哉さん(近畿大学准教授)です。見事に発達し切った逆三角形な上半身を見せつけながら淡々と視聴者を追い込む筋肉界のカリスマ。「筋肉は裏切らない」は昨年の流行語にも選ばれました。簡潔でリズミカルな番組構成、妙に豪華な気分にさせるBGM、そして武田真治など。そのシュールさは今や全国民の共通認識ですが、特筆すべきはやはり谷本さんの存在でしょう。名言だらけの『指導』はもちろんのこと、私はとにかく彼の顔に釘付けです。一点の曇りもないオーラとは裏腹に、余裕と不安が混濁しているような顔の造形と表情。揺るぎない居場所を見つけたからこそ、鎧を纏っていない部分(顔)に露呈する不確定要素。

 谷本さんの顔は、化粧をしていない時の女装たちのそれと同じ匂いがします。無防備で心細い。確信と弱さは背中合わせです。「裏切らない」のは筋肉でも女装でもなく、依存し切っている私たちの方だから。嗚呼、愛おしや。

週刊朝日  2019年5月31日号

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