「スローライヴは、盆踊りのように近所の人も集まるフェスです。そういうイベントだからこその温かさが、きっと音から感じられると思いますよ」
複数のアーティストが参加するフェスで、田島貴男のステージは際立つ。明らかに声が力を帯びて客席に届く。そこには声量以外の理由があるようだ。
「確かに僕の声は大きい。でも、それ以上に大切なことがあります。歌には、歌う人の人生、経験が如実に表れる。僕の歌は歌詞以上に声高で、それが表現されているのだと思います。それともう1つはリズムの解釈です。僕の歌は、リズムのタメを強く意識しています。リズムに対して、ほんのわずか遅れて歌を乗せることで、声が、そして曲全体が生き生きしてグルーヴィーになります。ノリがいい、グルーヴがいい、という言い方を音楽ではよく使いますが、タメがきいているからこその感覚です。気持ちよくて、体が自然に揺れてしまいます。子どものころから教会で歌っているアメリカのソウルやR&Bやジャズのすぐれたシンガーは、タメが自然に身に付いています。だから、アレサ・フランクリンの歌を聴くと、僕たちは踊らざるを得なくなってしまうわけです。でも、タメを意識して歌っている日本人のシンガーは少ないかもしれません。小坂忠さん、玉置浩二さん、久保田利伸さんには感じますけれどね」
田島自身がためを強く意識して歌うようになったのは、キャリアを重ねてからだった。
「30代後半になってやっと、ノリとかグルーヴを生み出すための自分のポイントがイメージできるようになってきました。でも、頭でわかっても、すぐにイメージ通りにできるわけではありません。何度も何度も歌い、感覚が体にしみこんでいくものです。僕自身今も完全にできているかはわかりません。よく、歌は50代から、と言います。歌うことの深さとおもしろさにようやく気づき始めた気がしています」(神舘和典)
※週刊朝日オンライン限定記事