ジェイムス・テイラーが歌う「リヴァー」はジョニがグレアムとの恋の終わりを歌った曲で、クリスマス・ソングの定番曲のひとつだ。もう一曲、往年のロック・ファンには懐かしい「ウッドストック」を追憶を込めて歌っている。
クリス・クリストファーソンがぼくとつに歌う「ア・ケイス・オブ・ユー」はグレアムやレナード・コーエンとの関係を下敷きにした曲とされる。クリスの情感のこもった歌いぶりが印象深く、ブランディ・カーライルがジョニを思わせるサポート・ヴォーカルを聞かせる。
エミルー・ハリスが歌う「マグダレーン・ランドリーズ」は私生児を身ごもった女性を強制収容した修道院の実話を元にしたものだ。ジョニが手がけた社会的なテーマによる曲で、アルバムを引き締める。
他にも、ジョニがソール・ベローの『雨の王へンダソン』を機上で読みながら、窓から見える光景に思い浮かんだという「青春の光と影」をじっくりと歌い上げるシール、アイルランド出身のシンガー・ソングライターでジョニの「コヨーテ」に刺激されてきたというグレン・ハンサードが歌う同曲の熱演も聞き逃せない。
また、ジョニの近年のバックを担当し、今回、音楽ディレクターを担当したブライアン・ブレイド、ジョン・カワード率いるハウス・バンドのソウル/ジャズ・テイストを主体とした洗練されたアレンジ、演奏も充実している。
公演の最後を締めくくったのは出演者全員による「ビッグ・イエロー・タクシー」。観光地での自然環境破壊を歌った曲、というのも意味深い。
ジョニ・ミッチェルは両日の公演を客席で見守るだけで歌うことはなかったが、最後にはステージに立ち、バースデイ・ケーキのろうそくを吹き消したという。
ジョニ・ミッチェルの名曲の数々が楽しめる以上に、それぞれのアーティストの彼女への敬愛ぶりを物語る感動的なアルバムだ。
(音楽評論家・小倉エージ)