長年の友人の安部恭弘の提供曲に松井五郎が作詞し、鈴木自身が制作を手がけた「Turn off the light」はAORテイストによるJ-POPの王道風の曲。情感にとんだ表現は鈴木ならでは。亡きミュージシャンの佐藤博の曲を起用し、鳥山雄司が制作を手がけた「ぼくについておいで」もAORテイストによるもので、鈴木はアダルトな持ち味を発揮。同曲では佐藤博がハードディスクに残した多重録音によるコーラスとの共演というサプライズも。
いとうせいこう作詞、米米CLUBの金子隆博作曲、編曲で、鈴木が大滝詠一門下生同士と語る音楽評論家の萩原健太が制作した「どんすた」はサンタナとアイズレー・ブラザーズをミックスしたラテン・ロック調。“どんすた”とは“Don’t Stop”のことで、遊び心が随所に。大滝詠一ファミリーの亡き布谷文夫のお囃子の掛け声も挿入。
THE ALFEEの高見沢俊彦作詞、作曲、制作による「デリケートな嘘」。高見沢が語るには“イメージはバブルだった頃の懐かしい東京の夜”とのこと。そして鈴木が“誰もが浮かれていた時代のナイト・ライフを見事に表現してくれました”と。高見沢のギター変化が楽しい。
アルバムを締め括る小西康陽の作詞、作曲、制作による「Sugar Pie Honey Bunch Marching Band」では、かつて小西が率いていたピチカート・ファイヴ風を再現。モータウン風のサウンドをバックに鈴木は華やかな歌声を聴かせている。
鈴木雅之はソウル・ミュージックやドゥ・ワップとの出会いをきっかけとするブラック・ミュージックへの傾倒の一方で、日本のフォークに興味を持ち、中学生時代にはカヴァーし、グランド・ファンクやクリームのカヴァーもやっていたことがあるという。音楽的な幅の広さはそうした背景があってのことだ。さらに、ヴォーカリストとしてはブラック・ミュージック的な要素と同時に日本の歌謡性も併せ持っていることこそ魅力であり、鈴木自身それを自負している。
本作『Funky Flag』について鈴木は“ヴォーカリストとして新しい挑戦が出来た作品だと強く感じています”と語る。熱い歌への取り組み、ひたむきさに打たれる。(音楽評論家・小倉エージ)