ヨーロッパで最も著名な1970年生まれのピアニストは?
Adelante / Giovanni Mirabassi
世界で最も著名な1970年生まれのピアニストは・・・ブラッド・メルドーである。ではヨーロッパではどうか。イタリア、ペルージャ出身のジョヴァンニ・ミラバッシが、ふさわしい実績を残している代表格と言えよう。
ミラバッシはアルバム・デビューから現在に至るまで、日本のレコード会社と深い縁を築いてきた。この点では非常に安定した道を歩んできた幸運の持ち主だ。99年のデビュー作『Architectures』を皮切りに、澤野工房が映像作品を含めて2010年までに、実に14タイトルをリリース。この事実だけをとっても、いかに澤野が力を入れていたかが明らかである。ミラバッシは日本でのヨーロッパ・ジャズを定着した澤野のラインアップで、最大級の貢献をしたアーティストだ。
2008年は節目の年だった。ミラバッシの拠点がビデオアーツ・ミュージックへと移動。トリオ作『新世紀』でステージ・アップすると、2010年4月には世界で最高というほどお気に入りのブルーノート東京にトリオで出演。そのステージは同年12月に『ライヴ・アット・ブルーノート東京』としてアルバム化された。
同作から1年が経たないタイミングで登場する本作は、原点回帰と言うべき内容だ。ミラバッシの出世作となった2001年リリース作『Avanti』の続編と位置付けるのがふさわしいピアノ独奏作。10年間のインターバルをはさんだことも、ファンには感慨深い。両作に共通するのは、反戦曲集というアルバム・コンセプトである。アーティストとしてのキャリア・アップの過程で、原点を強調せずに活動を重ねてきたミラバッシが、このタイミングで敢えてシリアスなテーマに取り組んだことに注目したい。選曲との結びつきをイメージさせる写真を含むブックレットを収納した『Avanti』の重厚なプロダクションとは趣が異なるが、本作は各曲の選曲理由をミラバッシが語った解説付きなので、演奏内容をより深く理解できる手助けになるはずだ。
ミラバッシには各国の反戦歌を伝えたい気持ちがあった。しかしそのテーマをシリアスに徹するのではなく、予備知識のないリスナーにも受け入れやすい形でのプロダクトを企図した。その帰結は、リスナーに好きなメロディーを探すチャンスを与えるという楽しみ方を提案したのだと思う。ぼくはミリアム・マケバがモザンビーク独立戦争を戦う人民に捧げた#4の美旋律に魅了された。トリオの成功に安住せず、ハードルの高いテーマに挑んだミラバッシに拍手を送りたい。
【収録曲一覧】
1. L’Internationale
2. Hasta Siempre
3. The Partisan
4. A Luta Continua
5. Le Deserteur
6. La Estaca
7. Lili Marleen
8. La Carta
9. Gallo Rojo Gallo Negro
10. Assentamento
11. Libertango
12. Yo Me Quedo
13. Graine d’Ananar
14. Le Temps du Muguet
15. Uno de Abajo
16. Le Chant des Canuts
17. Gracias a la Vida
18. L’Affiche Rouge
19. Razor de Vivir
ジョヴァンニ・ミラバッシ:Giovanni Mirabassi(p) (allmusic.comへリンクします)
2011年5月 ハバナ録音