FRPが乾いたら発泡スチロールを取り除く。ソリの原型の完成だ。そうしたら、そのほかの部品を取り付ける作業が始まる。上部を覆う布は耐久性と防水性に優れたゴアテックス。覆う布やソリの先端には断熱セラミック塗材「ガイナ」を塗った。ロケット先端に使われた高性能塗料で、あの「下町ロケット」をほうふつとさせる。

「ガイナは断熱効果も高い。万が一、テントが飛ばされたときでも、覆う布の中に入れば眠れる。これは技術者の『おまけ』です」(同)

 底面に取り付けるスキッドは、アルミと超高分子量ポリエチレン、引っ張るひもはナイロン。当初は木綿を予定していたが、水を吸って凍りやすいためやめた。

 寝ずの作業を続けて、ソリが完成したのは壮行会の1日前。無事に披露した後は、スキー場で阿部さんが実際に引っ張ってできばえを確認した。コブ斜面でのねじれ具合や、雪上での沈み方など、調整は日本を発つ日まで続いた。

 町工場の技術と知恵が結集した赤いソリ。阿部さんはどう思ったのか。

「完成したものを一目見て、かっこいいなと思いました。作っている工程を知ることが大事。南極遠征によくわからないものを使うのはリスクが高すぎます。冒険する環境が厳しいほど、道具の能力が大事になる。実際に見ると、荷物をどう入れるのかなどをすぐにイメージできました」(阿部さん)

 阿部さんは現地から発信したフェイスブックに、何度となく「ソリが重い」と書いている。

「前半に重かったのは、新雪がドカンと降ったから。南極は環境的には砂漠に分類されるくらい雪が降らないところですが、今回は新雪でソリが沈み抵抗が増えた。その分、重かったんですね。後半は標高が高く気温が低いので、雪が砂のように乾燥している。砂漠でソリを引っ張るのと同じなので重いんです」(同)

 うねった道を進み続けると、どうしてもソリはねじれ、ゆがんでくる。ゆがんでバランスが悪い状態で引っ張ると、体力を消耗する。町工場のものは頑丈で、ゆがみは最小限に抑えられた。

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