1月26日、阿部さんはソリとともに無事に日本に戻ってきた。鈴木さんが三次元解析したところ、ゆがみは5ミリほど。側面に傷はあったが、頑丈さが証明された。
次の目標は、故郷・秋田の偉人で南極探検家の白瀬矗(のぶ)中尉が果たせなかった、人類未到の「白瀬ルート」を単独踏破することだ。今年の秋のチャレンジを予定している。
今回使用したソリは、当初の条件より2キロ以上重かった。鈴木さんら技術者は軽さの限界を追求したが、阿部さんは満足はしていない。「現状維持なら、もう使わないかもしれない」と言う。冷たいようだが、命をかける冒険家だからこその素直な気持ちだろう。鈴木さんもそれは十分承知だ。
「失敗したら、『町工場ごときが不勉強で作るからこういうことになったんだ』と批判される。私たちも真剣です。もっといいものを作らない限り、別のソリが選ばれると思っています」
もちろん阿部さんは、町工場の技術者が力を込める次回作に期待もしている。
「冒険家はアスリートではないので、いくら心が強くても死ぬときは死ぬ。自然はそんなに甘くないです。白瀬ルートの踏破は、僕も技術者の親父さんたちもレベルアップしなければ成し遂げられない」
次の夢に向かって、冒険家と技術者の挑戦は始まったばかりだ。(本誌・山内リカ)
※週刊朝日 2019年4月12日号