デザインは、秋田大学工学資源学部出身の阿部さん自らがコンピューターで図面にした。それをもとに鈴木さんが具体的な設計図を描いた。先端の角度を何度にするのか、引っ張るひもを絡める金具をどこに取り付けるのか、重心はどこに置くのか──。
軽さと丈夫さという矛盾する条件を両立すべく、追い求めた。軽いと壊れやすく、丈夫にすれば重くなる。その折り合いをどうつけるかが、最大の課題だ。
素材にもこだわった。金属ではなく繊維強化プラスチック(FRP)に決めた。当初はチタン製を予定していたが、極寒の地での溶接の強度に不安が残ったためだ。壊れたら直すことはできない。それに対し、FRPはつなぎ目がなくしなやかで、比較的軽くて丈夫だ。
製作日程はギリギリだった。阿部さんが日本を発つのは18年11月9日。10月2日の壮行会には披露しなければならない。
「8月末の段階で、まだソリはできていなかった。ものすごいプレッシャーでした」(同)
ソリは長岡の「アダチ造形社」や「広井工機」が中心となって作られた。まず木材で実物と同じものを作製したが、その段階になって問題が見つかった。重量が想定よりオーバーしていたのだ。100グラムでも軽くという要望に応えるにはサイズダウン、つまり全長を短くする必要があった。
「デザインの担当者が『今さら縮められるか』って言うから、『そんなこと言ったって阿部さんから命をかけるのは俺だって言われたらどうするんだ。俺たちが妥協するしかないだろ』って言い返す。最後のほうはケンカですよ。阿部さんとも何度もやり合いました」(同)
一方で、誰も口にしなかったのは予算のこと。150万円ほどを想定していたが、試作段階まで工面できていなかった。
「それでも動くのが僕ら。『この予算でできるのか』とか、そんなつまんないことを口にする人はいなかったですね」(同)
木型の次は、巨大な発泡スチロールの塊をソリ型に削り、ツルツルに磨き上げる工程に入る。そこにFRPを塗って固めて本体を作るのだ。少しでも凸凹があるとムラが出てスムーズに走行できない。