著名人がその人生において最も記憶に残る食を紹介する連載「人生の晩餐」。今回は、俳優・松尾貴史さんの「文ちゃん」の「焼き鳥」だ。
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神楽坂は昔から、好きですね。食いしん坊の大人たちが集まる街といったイメージがして。若い頃からちょっと背伸びしつつも訪れていました。
ここは僕がまだ20代の頃、知人に連れていってもらってからのおつきあい。カウンターに座ると、目の前の炭火台で黙々と仕事する大将の姿が、じつに格好いいんですよ。まったく気取りがなくて。ハサミで時々焦げ目をチョキチョキ切りながら、おいしい焼き鳥を丹念に育てているような気がする。“本寸法”という言葉がぴったりだなといつも感じています。
たいてい注文するのが、おすすめの串コース。ここの焼き鳥は、つくねや肝も塩で焼きます。普段はタレで食べるのが好きなんだけど、これくらい素材がいいと、むしろ塩がいいやと思っちゃう(笑)。いつも冷酒をちびちびやりつつ楽しみます。
僕は料理人もお客もお互い敬意を払って、節度や気遣いを保っている店が好きですね。こちらはまさにそれにあてはまる、居心地のいい一軒です。
(取材・文/今中るみこ)
「文ちゃん」東京都新宿区神楽坂3‐6高橋ビルII B1F/営業時間:18:00~21:00L.O./定休日:日、祝日の月曜
※週刊朝日 2019年3月29日号