また、日本大学歯学部の落合邦康特任教授(口腔細菌学)らは、歯周病の原因菌によって作られ、口臭の原因にもなっている「酪酸(らくさん)」が、脳細胞の破壊の原因となる鉄分子やタウタンパクを増やしたという結果を報告しました。歯周病患者は歯周ポケット中の酪酸の数が健康な人に比べ、約10~20倍も多く検出されるという結果も得られています。

■歯周病にならなければ歯を失わずにすむ

 これまで連載でお話ししてきたように、歯周病菌は糖尿病、心筋梗塞(しんきんこうそく)、脳血管障害、動脈硬化などさまざまな全身病の原因になります。口の中に潜む歯周病菌が粘膜の表面の毛細血管の入り口から全身をかけめぐることで、こうしたことが起こると考えられています。

 この歯周病菌が脳に到達し、なんらかのプロセスを経て、アルツハイマー病を悪化させるリスクになっている可能性があることは十分、考えられます。

 研究はまだ、途上ですが、数年以内にはさらに詳しく歯周病と認知症のかかわりがわかってくるでしょう。

 アルツハイマー病の予防策としては、生活習慣病(糖尿病や高血圧、脂質異常症など)対策や食事、適度な運動、他者とのコミュニケーションなどさまざまなものがいわれていますが、こうした背景から、歯周病対策も入れることを私はおすすめしたいと思います。

 歯がなくなったり、弱くなってかむ力がなくなることはそれ自体、認知機能低下のリスクになることが明らかです。歯周病にならなければ歯を失わずにすみ、高齢になってもかむ力を維持できます。

 歯周病を治療することで口の中の細菌が減り、誤嚥(ごえん)性肺炎のリスクも回避できます。つまり、たくさんのメリットがあります。

 35年以上歯科医師をやっていると、長く経過を診させていただく患者さんも増えてきます。これは私の主観ですが、高齢になっても歯周病がなく、口の中がきれいで自分の歯をたくさん残せている人は、かくしゃくとしていて、脳年齢も若いと実感します。

 歯周病を治すことは、脳年齢を若くし、健康寿命を延ばすことにつながるのではないかと確信しています。

○若林健史(わかばやし・けんじ) 歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演

暮らしとモノ班 for promotion
大谷翔平選手の好感度の高さに企業もメロメロ!どんな企業と契約している?