抗血栓薬を服用している人などを除き、ほとんどの人が受けられる安全な手術という。
一方、前出の大慈弥医師のもとには、頭痛や肩こりの症状を訴え、眼瞼下垂が判明し、手術を受ける人が多い。目を開けようと無意識に眉を引き上げることで、額や首、肩などに負荷がかかるためだ。大慈弥医師によれば、眼瞼下垂の手術をすることで、ものが見やすくなるだけでなく、頭痛と肩こりが緩和し、結果、中高年のQOL(生活の質)が向上するという。
予防法はないのだろうか。目をぎゅっと閉じたり開けたりして、まぶたの筋肉を鍛えればよいと言う人もいるが、「それはおすすめしません」と言う。
もし何かやりたいのならば、視線を上に向ける動作ぐらいが良いと大慈弥医師は言う。
「室町時代からありますが能面の翁、媼こそまさに眼瞼下垂の表情です。高齢者の悲しそうな表情は眼瞼下垂からきていたということ。700年前も現代も、『老人はみな同じ顔』は目ヂカラが弱くなったことが理由です」
日本人の目ヂカラの鍵はまぶたの位置にあったのだ。視力はあるのに見えない、高齢者を悩ますまぶたの疾患はもう一つある。眼瞼痙攣だ。東京・御茶ノ水駅前にある井上眼科病院名誉院長の若倉雅登(まさと)医師はこの病の名医。若倉医師は眼瞼下垂や眼瞼痙攣だけでなく、眼球自体に異常がないのにその機能をうまく使えない目の異常を「眼球使用困難症」と名づけ、治療にあたっている。一番多いのは眼瞼痙攣という。
若倉医師は眼球使用困難症などを診察する「神経心療眼科外来」を井上眼科病院内に設けた。国内初だ。
視力に問題はないのに、眼球周りの異常によって、見たいものが見たいときに見られない。
「眼瞼痙攣の典型的な症状である『まぶしくて目が開けられない』もしくは『痛くて目が開けられない』は感覚障害(知覚過敏)と運動障害との複合です。脳における感覚系と運動系の統合バランスが崩れた脳の誤作動と考えています」(若倉医師)