この肝が彼らの処世術(テクニック)なのかどうかはさておき、これが自然とできてしまうレベルに達する人たちが、この先も王道の『アイドル業』を続けていくのは、正直しんどいでしょう。本来アイドルは、もっと無邪気で自由奔放な立ち居振る舞いが許される存在です。奇しくも会見で大野くんは「自由に生活してみたい」と言っていました。しかし今の嵐の『アイドル像』もまた、アイドルらしからぬ不自由さと矛盾を抱えてしまっている。そんな状況で「永遠のアイドル」「生涯アイドル」なんて未来を想像したら……。

 人は、延々と続いていく『今』を自覚した時、途方に暮れます。それでものみ込まれていくしかできない生き物です。だけど彼らは自分たちの摂理や営み、商品としての責任と真摯に向き合い、万人が「嵐らしい」と思える決断をした。つくづく凄い人たちです。

 昔は時代があらゆる『旬』にリミットを突きつける役目を果たしていましたが、今は良くも悪くも刹那をコントロールできる時代になりました。その典型がアイドルの長寿化です。そして嵐はそんな時代性における正真正銘のナンバー1アイドルであり、今回の決断を『解散』ではなく『休止』としたのも、今の時代を感じさせます。

 私が好きな嵐の楽曲のひとつに『時代』という01年にリリースされたシングルがあります。♪とかく/なんでも手に入るこの時代/すべて/なにをやるのも君ら次第♪闇の中で/てまねきする巨大なマーケット/そのちから/想像力/決断力/大事なのは自分のハート♪ 翔くんの初々しいラップが畳み掛けるどこか因果めいた名曲。今週はこればかり聴いていました。

週刊朝日  2019年2月15日号

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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