作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は「性産業」について。
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京都の男子大学生らが街で女性に声をかけ、高額なバーにつれていき借金を強要し、返せない場合は風俗に「売り飛ばしていた」ことが明らかになった。
男子学生たちは女性を容姿でランク付けした上で、様々な性産業に送りこんでいた。これまで延べ262人の女性が犠牲になり、学生らは約7300万円を得ていた。
京都市内の私立・国立計6大学の現役大学生ら約20人の集団。人権感覚もジェンダー感覚もない大学生たちからすれば、性に関するまともな教育もなければ、男のための過剰なエロ情報に溢れている社会で、女性を容姿で分類し、強制的に性で稼がせ、その上前をはねる、その一連の行為に犯罪意識すらなかったのかもしれない。
以前、デリヘルを経営する男性に話を聞いたことがある。法律では、女性に性風俗を紹介するスカウトは禁止されているが、AV業界を含め、性産業に入る女性のほとんどがスカウトに声をかけられて入ってくる。彼はこう言った。
「自分で応募してくる子より、スカウトが連れてくる女の子のほうが稼ぎます」
なぜ?と聞くと、
「女性の価値は、この世界では顔だけです。セックスの技術も話術もやる気も必要ない。素人であればあるほど、好まれます。スカウトに声かけられて付いてくる美人が一番いい」
身も蓋もない話に私は思わず言葉を失い、質問も思い浮かばず、座っていた事務所の椅子があまりに座り心地がよかったので、ついついこう聞いていた。
「この椅子、いくらですか」
自分でも意味のわかんない質問。動揺していただけだ。でも彼は笑いながら教えてくれた。
「高いですよ、30万円」「そうですか。座り心地いいですね」
30万円の椅子は20脚ほど並んでいて、男たちがコンピューターの画面を見ながら、客の注文を受けていた。高級デスクと椅子、そしてずらりと並ぶPC。はたから見たら、ここはIT企業だ。私はこの産業がどのくらい大きいのか見当がつかず、途方もないものを、はるか遠くから眺めているだけのような気がした。知りたいのに、近づけない。ここにいるのに、見えない。