落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「肩書」。
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初めて行く仕事先で、たまに聞かれること。
「プロフィールの一之輔師匠の肩書は『落語家』と『噺家』。どちらにしましょうか?」
たまにです。こんなこと聞かれるのは、ごくたまに。こちらから指定しなければ98%は『落語家・春風亭一之輔』と紹介されます。聞いてくる2%の人は、たいがい落語が好きな人orちょっと知っている人で、『噺家』という呼称に若干の思い入れがある人or覚えたばかりでちょっと使ってみたくてしょうがない人でしょうか。そんな人に「普通に『落語家』でいいですよ」と応えると、「あ、そうですか」と少し残念そうなのね。
こちらが頼んでもないのに「肩書は『噺家』にしておきました!」という人もいます。「『噺家』の響きの良さがわかる俺、どうよ!」という自意識がちと鬱陶しい。
私も意地悪なので、そういうときは「あー、なじみのないお客様にはわかりにくいんで『落語家』でお願いしますー」と返します。ある人は「え……そうですか……でも○○師匠は『噺家』がいい、とおっしゃっていましたが……」というアサッテの方角から“判例”を突きつけてきました。知らんがな。
めんどくせーな、と思いつつ、「あー、○○師匠は言いそうですよね。でもお客様のなかには『噺家』って読めない人もいると思うんですよねー。『落語家』のほうがわかりやすいですし……」と言えば、しばらく考えて、「じゃあ、いっそ『咄家』はどうでしょうか!」と、どこか嬉しそうだったりして。『咄家』なんて普通の人はもっとわかんないよ。
ま、私は正直『落語家』でも『噺家』でも『咄家』でも、どれでもいいです。『正座しておしゃべりおじさん』でも『着物で左右首振りストーリーテラー』でもよし。肩書なくても「春風亭一之輔」って書いてあれば、「あぁ、あーいうかんじね」ってわかりそうなもんですから。