■歯科領域に関心が低かった医師だが……
私はもとは神経内科医で、脳卒中で入院した患者さんをたくさん診てきました。片麻痺(まひ)があって、麻痺がよくなっても、1週間後に微熱が出てきて、2週間後に誤嚥性肺炎になってしまう。そのあと、重症化してしまうというケースはよくあることだと考えていました。
私たち医師は、歯科の領域に正直あまり関心がなく、「歯なんて治しても、命にかかわりないんじゃないか」と考えていました。しかし、口腔ケアを徹底することで明らかに誤嚥性肺炎が減ったことから、歯科の介入は大変意義があるものだとわかりました。
脳卒中だけでなく、がん患者さんの周術期でも、当院の誤嚥性肺炎発症率は0.7%と、他施設よりも低いことがわかっています。今後ほかの総合病院でも、こういった医科歯科連携を導入すべきではないかなと思います。
■医科歯科連携は、病院にとっても大きなメリット
しかし、全国の歯科医師のうち、病院に勤務しているのは3%ほどで、多くは診療所です。3%いる病院勤務の歯科医師も、そのほとんどは口腔外科です。リハビリ歯科チームとして口腔衛生管理にのみ徹した歯科医師はほとんどいません。歯科医師にももっと病院の中に入っていってほしいと思いますし、病院経営者には医科歯科連携の意義にもっと目を向けてほしいと思っています。
実のところ、がんの周術期の管理料は低く設定されていますので、その管理料を合計しても、当院のリハビリ歯科チーム(歯科医師3人、歯科衛生士2人)の給料をまかなうことはできません。しかし、そこに着目するよりも誤嚥性肺炎が減るということに注目すべきで、受け入れられる患者数が増えれば病院の増収につながり、スタッフの給料よりも多くのメリットにつながるということに気づいてほしいです。
そして、患者さんやそのご家族にとっても、「自分の口で食べたい」という願いをかなえてあげることができる、お金に表せない付加価値があることも、多くの医師や特に病院経営に携わる先生方には知ってほしいのです。
◯こまつもと・さとる
1950年東京都生まれ。慶応義塾大学医学部卒業後、1979年に同大学院を修了し医学博士を取得。米国ペンシルベニア大学脳血管研究所留学、慶応義塾大学神経内科医長を経て、90年に足利赤十字病院に着任。2008年から同院院長。
※『「認知症が気になりだしたら、歯科にも行こう」は、なぜ?』から