希代の武将が相模の覇者に

 希代の武将を新鮮なイメージで描き出したシリーズの第5弾にして最終巻。室町時代後期に、一代にして城持ちとなった伊勢宗瑞(後の北条早雲)が主人公だ。悲願の伊豆統一を果たした宗瑞は、関東の領有をめぐって山内上杉、扇谷上杉の両上杉氏とにらみ合う中、東相模の名門豪族三浦氏の打倒をめざす。敗走、内紛、長い籠城戦を経て、ついに三浦氏を破り、相模の覇者になる。その後、嫡男氏綱に家督を譲り、韮山に隠居。穏やかな最期を迎えるまでを描く。

「民を愛し、民からも慕われ、名君といわれた北条早雲の生き様を魅力的な文章で私たちに伝えてくれた」(マルサン書店・小川誠一さん)

■10位『国宝』上・下/吉田修一

若者が駆ける歌舞伎の世界

 デビュー20周年の節目に著者が挑んだのは、歌舞伎という伝統芸能の世界。長崎の任侠一家に生まれた喜久雄が、名門の血筋に生まれた俊介とともに芸の道を競い合う。幾多の紆余曲折を経ながら、希代の女形として頂点を極め、人間国宝になるまでを描く。

 才能ある二人の役者が切磋琢磨し、戦後の高度成長期から現代までを駆け抜ける青春小説でありながら、その背景となる歌舞伎の歴史や風俗、演目、梨園のしきたりまで丹念に描いた大河小説でもある。語り口も独特で、「ございます」調の文体によって、冒頭から作品世界に引き込まれる。

「講談調の語り口で綴られる絢爛豪華なる芸道ロマン」(文芸評論家・大多和伴彦さん)

週刊朝日  2019年1月4‐11日合併号