送検される久保木愛弓容疑者 (c)朝日新聞社
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事件の舞台となった旧大口病院 (c)朝日新聞社
事件の舞台となった旧大口病院 (c)朝日新聞社

 横浜市の大口病院(現・横浜はじめ病院)で2016年9月に起きた連続点滴中毒死事件では、同年の約2カ月半の間に入院患者48人が相次いで死亡。このうち3人に対する殺人罪などで12月7日に起訴された同病院の元看護師、久保木愛弓(あゆみ)容疑者が神奈川県警の調べに対し、被害者の実名を供述したにもかかわらず、物証がないため、起訴に至らなかったケースもあった。

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 その1人、92歳男性の遺族は県警から捜査断念の知らせを受けたという。50代の長女が、本誌に複雑な心境を語った。

 肺の病気を患っていた男性が大口病院の4階で急死したのは、2016年8月末。それ以来、長女はずっとその死に疑念を抱いていた。

 そんななか、2018年9月末、県警から連絡が入ったという。

「『実は、久保木容疑者があなたのお父さんの名前を出している』『名前を挙げたのは(48人のうちの)何人かで、父も限られた中の一人』だと聞きました。これで、これまでの“もやもや”が晴れるかもしれないと思いました」

 だが、その期待は裏切られる。

 2カ月後の11月28日。県警から連絡が入り署を訪ねた長女に、刑事は「すべて調べつくしたが、物証がなかったので今回は立件できない。捜査本部もなくなります」と伝えたという。

 県警の説明によると、今回立件できた被害者は、何かしら証拠が残っていた。だが、それ以前に死亡した患者に関しては、荼毘に付されているため立件は難しい、とのことだった。

「『亡くなる直前の髪の毛でも残っていたら、何か出てきたかもしれない』と言われました。悔しいですよ。なんで?という気持ちでいっぱいです。もちろん、立件できたからといって気持ちが晴れるとは思いません。ですが、本人がやっていると話しているのに物証がないということだけで立件できない。限りなく黒に近い白なのに、なんでこういう結果になっちゃったのと……」

 警察の捜査については「日数が経ってしまったので、仕方ない」という思いはある。一方で、時間が経つほど怒りが沸いてくるのは、病院の対応だ。

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突然怒ったり、大声を上げたりする看護師を見かけたことも…