「せたがや内科・神経内科クリニック」の久手堅司医師
「せたがや内科・神経内科クリニック」の久手堅司医師
この記事の写真をすべて見る
入浴中の死亡事故の約9割は高齢者(写真:getty images)
入浴中の死亡事故の約9割は高齢者(写真:getty images)

 消費者庁によると、ここ10年で入浴中の死亡事故は約1.7倍増えています。そしてその半分が12月~2月の寒い時期に集中していることがわかりました。入浴中の死亡事故の約9割は高齢者です。その主な原因が“ヒートショック現象”というものです。では、“ヒートショック現象”とは、どのような現象で、どう対策すればいいのでしょうか。寒暖差による体への影響に詳しい「せたがや内科・神経内科クリニック」の久手堅司(くでけん・つかさ)医師に聞きました。

*  *  *

 ヒートショック現象とは、急激な温度の変化によって血圧が急変することをいいます。血圧が急変すると、最悪の場合死に至る危険性があります。急激な温度変化が原因なので、冬場に起こりやすい現象です。また、起きやすい場所としてはお風呂場やトイレといった水まわり、日本では暖める習慣がない廊下などです。

 お風呂に入るとき、服を脱ぐと瞬間的に寒さを感じ、熱を逃がさないために血管が収縮し血圧が一気に上がります。その結果、脳血管障害や心筋梗塞(しんきんこうそく)を起こしたりします。寒いところから温かいお湯につかると、今度は血管が広がり血圧が一気に下がります。その結果、浴槽の中で血圧低下により意識を失い、溺死(できし)や、脱水症状になる危険性があります。

 消費者庁の発表によると、家庭の浴槽での溺死者数は、2004年の2870人から2015年の4804人と、11年間で約1.7倍の増加傾向にあります。また、2016年の高齢者の死亡事故のうち、入浴中の死亡者数は4821人、交通事故での死亡者数は3061人です。入浴中の死亡者数が、交通事故での死亡者数を上回っているのです。

 入浴中の死亡事故が増加している原因は高齢者が増えていることです。そもそも、ヒートショック現象は血管が硬くなっていたり、糖尿病や心臓病などの基礎疾患がある方(特に高齢者の方)がなりやすい現象です。入浴中の死亡事故の割合を世代別にみても高齢者が約9割を占めます。昔ながらの家だとお風呂場がタイル貼りであったり、浴室暖房がついていなかったりすると、余計に温度差が生じてしまいます。現代は核家族化が進み高齢者だけで暮らす家庭が多くなり、発見が遅れるということも原因のひとつだと考えられます。

次のページ
本格的な寒さを前に…