話題を呼んでいるザ・ビートルズの『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』の50周年記念エディションを聴いた。ジョージ・マーチンが手がけたオリジナルのステレオ・ミックスを、ジョージの息子でプロデューサーのジャイルズ・マーチンとエンジニアのサム・オケルが新たにリミックスしている。
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驚いた。ヴォーカルや楽器の定位置を改め、ベースなど低音部を充実させ、音圧、音質も改良し、今の時代に即した音に仕上げている。オリジナルとは別もの、新たなアルバムという印象を持った。同時に“ホワイト・アルバム”の魅力を改めて認識した。
私は“ホワイト・アルバム”のオリジナル・リリース時にリアル・タイムで聴いた世代である。当時、この作品が、それまでのザ・ビートルズとは明らかに違うと感じた。すでにジョン・レノン、ポール・マッカートニーの2人の曲は、コンビによる共作ではなく、それぞれの個人色がくみ取れる内容へと変化し始めていたが、“ホワイト・アルバム”では、それが顕著になった。バンドとして一体化した演奏展開もある一方で、作曲者主導によるソロ・ワーク的な曲が大半を占めるようになっていた。バンドとしてのザ・ビートルズは終わった、といった印象さえ覚えた。
「“ホワイト・アルバム”の制作期間中は、メンバーの絆が弱まり、ビートルズはほとんど共同作業をおこなわず、むしろ別々に作業する方を好んだと多くの人が信じてきました」
ジャイルズが解説で触れているように、誰もがそう思っていたはずだ。
本作の録音時、リンゴ・スターが一時的にザ・ビートルズから離脱。エンジニアのジェフ・エメリックはメンバー間の緊張に耐えられず、9曲を録り終えたところで現場から離れ、後に著作で当時の険悪な雰囲気を明らかにしたこともあった。
ジェフの後を受け継いだエンジニアのケン・スコットは“確かに誰かが癇癪を爆発させることはあった。だが、何度となく報じられてきたほどひどい事態になったことは一度としてなかった”と述べている。メンバー間でただならぬことがあったのは事実だったようだ。
もっとも、ジャイルズは先に触れたことは“誤りである”とし、“初期のテイクから完成形のマスターまで、段階的にレコーディングを追っていけば、4人全員がスタジオで飽くことなく共同作業を進めながら、それぞれの曲のサウンドや感触をつくりあげていく過程を耳にすることが出来るでしょう”と記している。