北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
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(イラスト/田房永子)
(イラスト/田房永子)

 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は自らが長年抱いていた俳優・樹木希林さんの印象について。

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 樹木希林さんが亡くなってもう2カ月が経った。「樹木希林」とネットで検索すると「名言」が出てくるほど、樹木希林さんはその「言葉」や「生き様」を待たれる俳優だった。多くの人が樹木希林を語りたがった。ロックな女、自由な女、懐の深い女、自分がある強い女……皆、自分の中の樹木希林を語りたがった。

 私は「樹木希林」が苦手だった。70年生まれの私にとって、彼女は富士フイルムのCMの人だ。「美しい人はより美しく、そうでない方はそれなりに」という乱暴なコピーで、樹木希林は“振り袖着てお見合い写真を現像しにくる年増の独身女”だった。「美人」の岸本加世子が樹木希林を見下す様も含めて、重たいCMで、言葉にはできなかったが、性差別の笑いに、まっすぐに傷ついた。

「独身(笑)」と「ブス(笑)」をCMの中で背負う「樹木希林」がさらに重くなったのは、ワイドショーで見聞きする彼女の私生活だった。内田裕也にずっと暴力を受けていたこと、裕也が一方的に離婚届を出したが承服せず、裁判で離婚届を無効にしたことなど。そんなことが話題になったとき、周りの大人たちが「あの人も女なのねぇ」と薄ら笑いで話していたことも含め、強烈な印象が残っている。

 そう、私にとって樹木希林は「女」というものを重たくする人だった。

 美人じゃないだけで「笑い」になる。独身女を演じては「笑い」になる。私生活では夫に殴られ、浮気され、それでも「離婚しない」姿勢に、「彼女も女ねぇ」と「笑われる」。ねぇ、いったい「女」とは何よ?

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