ある日、同じ部屋にいた中国人女性に職員が何かの紙にサインするよう、鉄格子越しに指示をしていた。日本語で大きな声で。彼女がわからない、という顔をすると、職員は怒鳴るように日本語で大きな声で同じことを繰り返す。たまりかねてそばに行き書類をのぞき込むと、裁判で通訳が必要かどうか、何語の通訳が必要かを尋ねる日本語の書類だった。横から「ここに○つければいいよ」と指を出し彼女を促すと職員は私に叫んだ。「手伝うな!」と。

 不法滞在の人の多くは留置場から入国管理局に連行される。入国管理局で体調不良を訴えた人が放置され亡くなったり、絶望して自殺したというニュースを定期的に目にする。それは、私に叫んだ職員の延長にある結果だと思う。それは、やっぱりアニータの延長にあるのだと思う。

 2001年、アニータが私たちに見せたのは、90年代の日本社会の闇だと思っていた。そうではなく、未来への警告だったのだと、今、気がつく。

週刊朝日  2018年11月30日号

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