『ア・ヒストリー・オブ・ジャズ・イン・ブリテン 1919-50』ジム・ゴッドボルト著
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『ア・ヒストリー・オブ・ジャズ・イン・ブリテン』は、生粋のイギリス人の視点から、同国におけるジャズの変遷を、初めて包括的に捉えた貴重な文献である。初版が刊行されて以来、こうしたジャズ文学の出版は増加しているが、本書に匹敵する研究書は、皆無に等しい。

 著者ジム・ゴッドボルトは、1919年のオリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンド公演によるジャズの到来、紆余曲折を経たジャズという音楽分野の確立、ビッグ・バンド時代の繁栄、ミュージシャンズ・ユニオンの排他的な決定や、バップの出現に起因するミュージシャン間の反目を、入念に検証する。

 そして、オリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンドは言うまでもなく、サウザン・シンコペイティッド・オーケストラ、ポール・スペクツ・ジョージアンズ、ルイ・アームストロング、デューク・エリントン、ポール・ホワイトマン、テッド・ルイス、キャブ・キャロウェイといった、1920年代から30年代のジャズの草分けとなるアメリカのアーティストやバンドを網羅し、彼らがイギリスのミュージシャンに及ぼした影響を考察する。また、当時のさまざまなレヴュー(面白おかしいものもあれば不快きわまりないものもある)、『メロディ・メイカー』を始めとする専門誌、ディスコグラファー、批評家を吟味し、イギリスのトラッドやバップのルーツを探求する。

 さらには、ミュージシャンズ・ユニオンがアメリカのミュージシャンの入国を禁止し、裁判の結果、アメリカ側が敗訴したにもかかわらず、シドニー・ベシェやコールマン・ホーキンスがイギリスのステージに立つに至った興味深い裏事情をも明らかにする。

 イギリスのジャズ界では名の聞こえる著者が、徹底的に調査した事実に基づき、ユーモアをまじえて鋭敏に綴る本書『ア・ヒストリー・オブ・ジャズ・イン・ブリテン』は、愛好者にとって必要不可欠な文献であるばかりか、一般の読者にとっても魅力的な読み物である。

●著者の紹介

 ジム・ゴッドボルトは、1922年にサウス・ロンドンのワンズワースに生まれ、英国海軍を除隊後の1946年から、ジョージ・ウェブス・ディキシーランダーズのマネージメントを行なう。1952年には自身のバンド・エージェンシーを設立し、スウィンギング・ブルー・ジーンズを含めて、多数のバンドを抱えた。1971年に文筆業に転じ、自伝『オール・ディス・アンド・テン・パーセント』を執筆する(2007年、『オール・ディス・アンド・メニィ・ア・ドッグ』として改訂)。また、1979年には、ロニー・スコッツ・クラブの機関紙『ジャズ・アット・ロニー・スコッツ』を発刊する。著書には他に、『ア・ヒストリー・オブ・ジャズ・イン・ブリテン 1950-70』、『ザ・ワールド・オブ・ジャズ・イン・プリンティッド・エフェメラ・アンド・コレクティブルズ』がある。

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