エルヴィス・コステロががんの摘出手術を受け、ヨーロッパ・ツアーをキャンセル――。このニュースはファンを驚かせた。本人が語るには、定期検診で腫瘍が見つかったために手術を受けたが、回復は順調。大事をとってツアーをキャンセルしたが、タブロイド紙が重病説を流したそうだ。ライヴを再開し、アルバム『ルック・ナウ』も発表した。
デビュー時から活動を共にしてきたジ・アトラクションズのメンバーで、40年余りの付き合いになるスティーヴ・ナイーヴ(キーボード)、ピート・トーマス(ドラムス)に、デイヴィー・ファラガー(ベース)が加わったジ・インポスターズとの10年ぶりの共演盤だ。名盤『ペインテッド・フロム・メモリー』(1998年)を生んだバート・バカラックとの再共演もある。キャロル・キングとの共作曲などライヴでは披露しながら未録音だった曲も収録。話題満載のアルバムである。
コステロは当初、“『インペリアル・ベッドルーム』(82年)のエモーションと『ペインテッド~』のロマンチシズムを併せ持つアルバム”と語っていた。結果的にその2作とは異なる内容になったと後に語ったが、要するに“音のでかいロックン・ロール・アルバムではない”ことを伝えたかったのだろう。
『インペリアル~』は、4ピース・バンドの枠を越えたアレンジに挑戦し、好評を得た。しかし、ライヴでの再現が難しい曲が多く、一部は演奏されずにいた。2016年にそれらの曲の演奏に取り組んだ結果、大丈夫との確信を得たのが、本作のきっかけになったという。
本作は、幅広い音楽性をもったポップ・アルバムだ。バカラックとの共作品をはじめエモーショナルなバラード・ナンバーが光る。モータウン・スタイルの軽快でリズミックなナンバーもある。
とはいえ皮肉屋で一癖も二癖もある歌詞を手がけてきたコステロのことだ。訳詞を見ながら聴き進めるとドギマギさせられる。哀れで惨めでみすぼらしい主人公の人生や男女間の複雑な人間模様など、悲劇的な物語が多い。スパイスの利いた社会風刺もある。さまざまな人間を主人公にしながら、その視点はコステロ自身が経験し、見聞きしてきたものだとも語っている。