ライヴ活動からの引退を表明していたポール・サイモンが、新作『イン・ザ・ブルー・ライト』を発表した。14枚目のスタジオ・アルバム。近年、意欲的な実験作を出してきたが、今回は既発表曲のセルフ・カヴァー作だ。
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ポールがライヴ活動を止める意向を示したのは今年2月。理由として、30年来の友人で、バンドのギタリストだったヴィンセント・ンギニが亡くなったことと、家族と離れる時間が負担になったことを挙げていた。その後、“フェアウェル・ツアー”としてアメリカ、ヨーロッパなどを巡演。9月に“自宅から自転車で15分程だった”というニューヨークのフラッシング・メドウズで最終公演をした。ツアーの模様は動画サイトにアップされ、話題を呼んできた。
そうした中で発表された新作で、ポールが選んだ曲は、あまり評価されなかった作品が主体だ。ポールはライナー・ノーツでこう語っている。
「このアルバムに収められた曲は、僕にしてみれば“ほぼ正しい”と思える。一度目は見過ごされてしまった、ちょっと変わった曲の数々だ。アレンジをやり直し、ハーモニーの構造を見直し、曖昧だった歌詞を書き換えることで僕自身、頭の整理ができた。自分は何を言いたかったのか、その当時、何を考えていたのか。そうして、より分かりやすいものに生まれ変わらせることができた」
アルバムの幕開けは「君の天井は僕の床」。「僕のコダクローム」や「アメリカの歌」といった代表曲を収めた『ひとりごと』(1973年)からの曲。ポールにとっては異色ともいえるブギ・ベースの曲で、オリジナルよりもディープにブルース・フィーリングを醸し出し、低音のコーラスも交える。この曲、危険と隣り合わせのニューヨークのアパート生活を歌ったもの。なぜそんな曲を1曲目に?と、ちょっと意図を図りかねたが、本作を最後まで聴けば、その理由にも納得できる。
続くは「ラヴ」。『ユー・アー・ザ・ワン』(2000年)の収録曲で、オリジナルはエキゾチックなムードだったが、今回はレゲエ的なギターをフィーチャーして洗練味を増した。歌詞では、難民を生み出す各地の内戦の痛ましさに触れる内容に書き改められている。