また、ナドラー議員はモラー特別検察官の捜査を見守りながら、ロシア疑惑などの問題も追及していくとしている。もしそうなれば、かつてトランプ大統領のために働き、現在は罪を認めて検察側に協力しているポール・マナフォート元選対本部長やマイケル・コーエン元個人弁護士などを委員会に招致し、証言させることも可能になる。とくにコーエン被告は長年トランプ大統領の様々な問題を何も聞かずに解決してきた「フィクサー」として知られており、大統領の重大な秘密を握っている可能性は高い。

 ナドラー議員は、「トランプ大統領の弾劾についての判断はモラー特別検察官の報告書の発表を待つべきだ」とした上で、弾劾の基準についてこう述べている。

「弾劾で問われるのは大統領の行動が民主主義の秩序や三権分立の原則を脅かしているか、議会・司法制度・国民を軽んじて、大統領に権力が集中し過ぎているか、それが自由や政府の機能の脅威になっているかという点です」(2018年9月30日、「ABCジス・ウィーク」)

 トランプ大統領によって米国の民主主義が脅かされていることは、ニューヨーク・タイムズ紙(同年9月5日付)に掲載された匿名の政府高官による論説記事でも明らかにされた。

 この高官は「大統領は衝動的で敵対的で考え方が狭く、無能だ。問題の根本は大統領に道徳心が欠如していることにある」と述べ、「私は大統領のために働いているが、同じ考えを持つ同僚とともに、大統領の最悪の性向からくる無謀な意思決定を阻止するべく懸命に努力している」と、政権内の実態を暴露。さらに職務不能を理由に大統領を強制的に解任できる「憲法修正第25条」の適用について閣僚間で検討したことも明かした。

 米国の民主主義の制度はいま、崖っぷちに追い込まれている。しかし、合衆国の建国者たちはこのような状況を想定していたのか、邪悪な指導者から国を守るための方法を憲法に定めていた。副大統領と閣僚の過半数の賛成で大統領を解任できる憲法修正第25条と、議会下院の過半数、上院の3分の2以上の賛成で大統領を弾劾できる憲法第2章第4条である。

 両方ともハードルは高いが、弾劾に関しては民主党が下院の過半数を取れば、弾劾訴追案の可決が可能となる。問題は上院だが、3分の2はおろか、過半数の議席獲得も疑問視されている現状ではかなり厳しい。しかし、不可能ではない。

 1974年にウォーターゲート事件で辞任に追い込まれたニクソン大統領は、下院で弾劾勧告案が可決された後、与党共和党の指導部から辞任を促され、その決断をした。今回もモラー特別検察官の報告書の内容次第で(弾劾の根拠となる決定的証拠が示される)、同様のことが起こる可能性はある。そのためにも民主党は下院で多数派を奪還しなければならない。選挙の行方が注目される。

週刊朝日  2018年11月2日号

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