トランプ政権から抜け出す方法を探った映画「華氏119」を制作したマイケル・ムーア監督は、大統領を「邪悪な指導者」と呼ぶ。嘘をつき、人を混乱させ、巧みに操り、大事なことから注意をそらそうとしているからだという。ジャーナリストの矢部武が、トランプ政権の命運を握る11月の中間選挙の行方を探った。
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トランプ大統領によって米国社会は真っ二つに分断され、民主主義の制度や法の支配が脅かされている。しかし、11月の中間選挙で野党民主党が議会下院の多数派を奪還すれば、「トランプの暴走」を止められるかもしれない。
トランプ大統領が指名した保守派の最高裁判事、ブレット・カバノー氏の人事案を承認したことで、与党共和党は中間選挙で大きな代償を払うことになるかもしれない。カバノー氏に学生時代の性的暴行疑惑が相次いで浮上したにもかかわらず、十分な調査審議を行わないまま採決を強行し、女性有権者を激怒させてしまったからである。
36年前にカバノー氏に襲われたとする大学教授のクリスティーン・フォードさんは9月27日、上院司法委員会の公聴会で声をつまらせながらこう証言した。
「私はベッドに押し倒され、彼がのしかかってきて、体をこすりつけてきました。(中略)私はレイプされると思い、助けを求めて叫ぼうとしたが、彼は私の口をふさぎました。これが最も恐怖で、私の人生にずっと影響を与えました……」
一方、カバノー氏は「人違いの犠牲になった」とし、「私は誰にも性的暴行を加えたことはありません」と全面否定した。
2人の証言の後、トランプ大統領は委員会の要請を受け、FBIに疑惑の追加調査を命じた。しかし、それは1週間の限定で、FBIは重要な証言をする可能性のある関係者の多くに聴取しないまま報告書をまとめた。民主党は「調査は不十分で、まやかしだ」と猛反発したが、共和党は「疑惑を裏付けるものは何もなかった」として採決し、50対48で承認した。