水晶は電気を流すと安定した周波数で振動する特性がある。この振動を電気信号として取り出し、電子回路に応用するのが、水晶振動子である。

「さまざまな形状の水晶振動子の検証を重ねてきた結果、たどり着いたのが、音叉型と呼ばれるものです。これは小型化や耐衝撃性・省電力に優れていました。ただし作るのが大変難しいものでした」と、きびしい表情で渡邉さんは話す。

 音叉型水晶振動子は形状が複雑で、製造にはかなりの精度を要し、開発当初は、細かな作業で徹夜も続いたという。

 また、時計を動かすモーターも従来のものとは全く違う構造のものを開発した。コイル・モーター(磁石)を平面状に分散することで小型化・薄型化を、1秒間に1回(瞬間)電流を流すことで省電力化を実現した。これが1秒ごとに秒針が動くステップ運針というクオーツ時計の特徴を生み出した。

「この二つの技術がそろったことで、クオーツの腕時計が日の目を見ることになったのです」と渡邉さん。

 そして69年12月25日、世界初のクオーツ式腕時計「クオーツアストロン」が発売された。その衝撃は大きく、アメリカの新聞にも報道された。

「そのとき開発された音叉型水晶振動子は改良を重ね、今や世界中の多くの腕時計に搭載されています。クオーツアストロンが発売され来年で50年になりますが、現在もその当時の技術が基本となっています」と村上さんは誇らしげに話す。

 今ではセイコーの開発した音叉型水晶振動子はクオーツの世界標準にまでなっており、パソコンや電卓などさまざまな電気製品に使用されている。それは最高の技術を求め、特許の公開や普及に努めたセイコーの魂の結晶なのである。

≪主婦の味方、東芝自動式電気釜≫

「自動電気釜の開発は終戦から5年後の昭和25年に始まりました。世の中がどんどん良くなっていく時代でした」

 電気釜一筋に30年以上開発を続けてきた東芝OBの守道信昭さん。電気釜専任で開発・商品企画に携わってきたことから、釜仙人と社内で呼ばれていた。

 家庭用電化製品の開発は、女性の社会進出もあり、主婦を家事から解放したいという思いから始まったそうだ。

暮らしとモノ班 for promotion
「プラレール」はなぜ人気なの?鉄道好きな子どもの定番おもちゃの魅力
次のページ