「だいじなこと」は、漫画が原作のテレビアニメ「3D彼女 リアルガール」のオープニング曲。90秒尺で、という依頼に応じて手がけたポップなメロディーと主人公の内面を描き出した歌詞、鍵盤主体でストリングスなども起用したアレンジなど、その手腕は見事。

「忘れないように」は97年ごろに原型があったという。マーヴィン・ゲイなどモータウンを意識したリズムで、軽快な演奏、サウンド展開による。

 軽快なシャッフル・リズム、ポップなメロディーで楽しさがあふれる「特別な日」は、20周年を迎えたジェイアール京都伊勢丹への提供曲。同社の社員たちが出演したMVは必見だ。

「どれくらいの」は、“ずばり失敗をテーマにした”という歌詞。サザン・ソウルの趣を持つブルース的な演奏展開。ツアー・バンドの面々による情感豊かな演奏が印象深い。

 アルバムをしめくくるのは現在の岸田自身の心情、身辺や世の中への思いを描いた「News」。ビリー・ジョエルの曲を思わせる一節もあるが、哀愁を帯びたメロディー、生々しい岸田の歌の説得力にひかれる。Dr.KyOnのピアノ、屋敷豪太のドラムスの手腕も見逃せない。

 デビュー以来、常に新しいものを求め、思いつきや衝動に駆られるまま、音楽的な変化を続けてきたくるりだ。デビュー20年を経て、ひと巡り。どこか懐かしくて新しく、くるりらしくて、くるりならではの本作は、彼らの原点回帰を物語ると言えそうだ。(音楽評論家・小倉エージ)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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