手術を避けたい、あるいは不能な場合は、プラチナ製剤と呼ばれる抗がん剤・シスプラチンの投与と放射線照射を併用する化学放射線療法がおこなわれる。
しかし、約半数が再発し、化学放射線療法では激しい副作用で後に約1割が死亡するとの報告もある。
再発時は再度がんを切除することもあるが、それでも約半数は再々発。初期治療で抗がん剤を使わなかった症例では、シスプラチン、フルオロウラシルの2種類の抗がん剤に、抗がん剤の一種である分子標的薬のセツキシマブを加えた3剤併用療法もおこなわれる。
■1年後の生存率が新薬で大幅に改善
ただ、シスプラチンなどのプラチナ製剤を含む治療が無効になると、他の抗がん剤を代わるがわる投与しても生存期間は6カ月未満だ。
こうしたプラチナ製剤が無効の再発・転移性の頭頸部がんに対して17年3月に承認されたのが、免疫に作用する新たな治療薬のニボルマブ(商品名オプジーボ)である。
以前からがん細胞に対しては体内の異物を排除する免疫が徐々に無効になることがわかっている。これはがん細胞自身が新たな分子を作り出し、免疫細胞表面の分子と結合して免疫作用を止めてしまうからだ。ニボルマブはこの結合を阻止し、免疫ががん細胞を常時攻撃できる状況を作る。
「再発頭頸部がんを対象におこなった国際臨床試験での1年生存率は、既存治療の16・6%に対し、ニボルマブでは2倍以上の36・0%という結果が得られています」(田原医師)
千葉県在住で公務員の加藤俊子さん(仮名・31歳)は7年前に上咽頭がんと診断された。初診時は一目で頸部の腫れがわかるほどで、肺への遠隔転移も見つかった。病期は、最も進行しているステージIVだった。
田原医師の下で化学放射線療法をおこない、いったんは肺転移も含めがんが消失するも約1年後に再発、肺転移も徐々に増大した。その後はフルオロウラシル、シスプラチン、タキソテールなどのさまざまな抗がん剤で代わるがわる治療したが、全て無効になり打つ手なしの状態だった。3月の承認直後にニボルマブを投与すると、肺転移の影響で生じていた息苦しさを感じるほどの咳が止まり、常用していた咳止め薬が不要になった。