感染症は微生物が起こす病気である。そして、ワインや日本酒などのアルコールは、微生物が発酵によって作り出す飲み物である。両者の共通項は、とても多いのだ。感染症を専門とする医師であり、健康に関するプロであると同時に、日本ソムリエ協会認定のシニア・ワイン・エキスパートでもある岩田健太郎先生の連載が始まる。「ワインにまつわる話」、特に「微生物が行う発酵」「ワインと健康の関係」「ワインの歴史」についてお伝えしたい。
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前回は、飲食物と健康について、かなり面倒くさい話をした。さて、本題のワインに戻ろう。
■ワインはからだによいのか、悪いのか
ワインはアルコール飲料の一種だ。そして、アルコール飲料はさまざまな健康リスクに関与している。アルコールは体に悪い。だから、ワインもからだに悪い。たとえ、胆管がんのリスクではないにせよ、そういう意見はあるだろう。
一方、ポリフェノールが入っているから、ワインは健康によい飲み物だという意見もある。
どちらが本当なのだろうか。ワインはからだによいのか、悪いのか。
それを検証するのが本連載の目的だ。そしてそれは、「アルコールと胆管がん」の関係で議論したような、ねっちりとした面倒くさい議論でなければならない。
ぼくは内科医なので、人の健康にはとても高い関心がある。
しかし、ぼく個人は、ワインが好きなワイン・ラバーでもある。日本ソムリエ協会認定のシニア・ワイン・エキスパートでもある。要するに、ワインには人並み以上の関心があるし、愛好もしている。
本当はこういうのは「利益相反」といって、危なっかしい。ワイン好きはワインに都合のよいデータばかり選り好みして、都合の悪いデータを無視したり矮小(わいしょう)化したりするリスクがあるからだ。
逆に、「お酒なんて大嫌い」「ワインなんて見るのも嫌」という人が検証するのも案外、危ない。そういう人はワインに都合の悪いデータばかり選り好みして、ワインにとってよいデータを無視したり矮小化したりするリスクがある。