そのときに大切にしてきたのが、「ゼロベース」で議論するということだ。

 ゼロベースとは結論ありきで最初からどちらかの肩を持つのではなく、是々非々で虚心坦懐にデータを検証し、検証のあとで結論を導き出すというやり方だ。

 これまであつかった対象である抗生物質、ワクチン、あるいはいろいろな食べ物について、ぼくは賛成派にも反対派にも属さない形で議論を重ね、それぞれ各論的に結論を導いてきた。

「各論的に」というのはどういうことかというと、抗生物質はよいとか悪い、という言い方をせずに、「どういうときによいのか」「どういうときは使わないほうがよいのか」というふうに分けて考えるということだ。そして、その検証はそれなりにうまくいってきたと思う。

 今回の場合、ぼくは最初からワインの肩を持つような立場でいる。だからこれまでと違って中立的な立場に立とうと思えば、よほど慎重に、そして意識的にやらないといけない。

■利点も欠点も充実に検証

 ワインの健康に関する利点も、欠点も忠実に検証し、エコヒイキすることなくまとめてみたいと思う。そのために、あえてワインに対して厳しめの批判的な視点を強調しておこうとも思う。

 こういうのをアメリカでは悪魔の味方(devil’s advocate)という。

 これはぼくが昔書いた、アメリカ医療の批判本のタイトルでもある(『悪魔の味方 米国医療の現場から』)。当時、「アメリカ医療大絶賛」の意見と、日本医師会がよく使う論調である「日本医療最強」の意見がバトルをしていた。ぼくは両者の見解を、難しい言い方で言えば脱構築し、米国医療に厳しいクリティーク(批評)をしつつも、かといって「ニッポン 万歳にはならない」という両側批判を行った。

「あえて自分の立場から離れて吟味する」のがわりと得意なほうだと、自分では思っている。だから今回も「ワインと健康の吟味」を、きちんとしてみたい。そして、それがうまくいっているかどうかは、読者の判断に委ねたい。

 前置きが長くなったが、まだ本論には入れない。なぜか……そもそもワインとは何か、アルコール飲料とは何かを確認しておきたいからだ。

◯岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著に『もやしもんと感染症屋の気になる菌辞典』など。

暮らしとモノ班 for promotion
2024年の『このミス』大賞作品は?あの映像化人気シリーズも受賞作品って知ってた?