漢方は高額なうえに本当に効果があるのか――。そんな疑いの目で見られがちな漢方だが、上手な付き合い方をすれば、その恩恵は大きいという。活用するコツや注意点などを2人の医師に聞いた。
漢方薬は300処方以上あり、「テーラーメイド」のごとく、より患者の状態に合った処方を選ぶことができる。
そのために使われるのが、漢方独自の診察方法だ。病歴や症状などを聞き取る問診のほか、おなかや脈を触り、舌の状態なども観察し、症状も含めたその人の体質(証)を見極める。
小田口浩医師が所長を務める北里大学東洋医学総合研究所は、漢方を専門に学んだ医師がこうした漢方独自の診察に基づいて「証」を導き出し、漢方本来の「刻み生薬」という剤型で証に適した漢方薬を処方している。刻み生薬とは、生薬を細かく刻んで配合したもので、煮出して飲む、いわゆる「煎じ薬」だ。保険でも処方できるが、品目が限られ、保険点数上、質の確保が難しい。同研究所では効果が高い刻み生薬を使うため、自由診療で薬代も全額自己負担になる。
実はこうした伝統的なスタイルで診療や処方を行う医療機関は少数派。現在は、一般的な医療機関で、西洋医学の診察を行う医師が「漢方エキス剤」を処方するスタイルが主流だ。エキス剤は煎じ薬をフリーズドライ加工し、顆粒状にしたもの。煎じ薬より効果は落ちるが、一包ずつ個別包装されていて簡単に服用できる。現在148品目の処方が保険収載され、患者の自己負担は原則1~3割で済む。
帝京大学大学院(東洋医学)指導教授の新見正則医師は、10年以上にわたってこうした「現代的な」漢方治療の普及に努めてきた。
「私は血管外科医で、腹部大動脈瘤や下肢静脈瘤といった血管の病気を手術で治してきました。一方でしびれやむくみといった症状で受診する患者さんには治すすべがないことが多かった。血管に異常がないので手術はできないし、西洋薬でも治すのは難しい。肩を落として帰っていく患者さんを救いたい一心で新しい引き出しを探していたときに出合ったのが漢方でした」