結局、静岡あたりまでこの調子。名古屋を過ぎてようやく呼吸が整ってきて、新大阪までに弁当を完食。空になった重箱の写真を一蔵のワイフに送り、ご機嫌で甲子園へ。暑い。けど球場を見ると早足になるのはなぜだろう。「急げっ! 一蔵っ!!」。重かったはずの足どりが羽が生えたように軽やかに。階段を駆け上ってスタンドからグラウンドを見渡すと自然「わーーーっ! すげーーーっ!」と声が出た。「でしょ?」と一蔵。「お前の甲子園か?」と思ったが、許す。試合は大阪桐蔭vs.作新学院の真っ最中だ。ビールと焼き鳥を買って着席。なんだ、これは!? 楽しいぞ。「一回外に出て、アルプススタンドのほうに行きましょう。暑いけどあっちのほうが絶対楽しいですから!」
わざわざチケットを買い直して一塁側内野自由席へ。旭川大高vs.佐久長聖。旭川応援団の音が真横から、佐久の音が正面から身体にぶつかってくる。息詰まるシーソーゲーム。なんと初のタイブレーク! 延長14回。
「一蔵さん。僕はこの試合が終わってほしくないよ……」。泣いていた。敗れた旭川ナインがアルプス席の前で挨拶。思わず立ち上がって「ありがとーっ! おじさんに甲子園をありがとーっ!」と叫ぶ二人。すぐに一蔵のカミさんからLINEがきた。「デブと坊主頭が今、NHKに映ってます」
休み明けの私のカバンには、旭川大高のキーホルダーがぶら下がっている。来年は寝過ごさないようにせねばな。
※週刊朝日 2018年9月14日号