年をとると、どんな人でも耳が遠くなる。75歳以上では約7割が難聴という調査結果もある。しかし、それを「年だから仕方がない」とそのまま放置していると、思わぬリスクを招くことをみなさんはご存じだろうか? 週刊朝日ムック「『よく聞こえない』ときの耳の本」によれば、最新の研究では、聞こえの低下が認知症と関係していることが明らかになってきているという。
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2017年の国際アルツハイマー病会議で、ランセット国際委員会が発表した内容に、注目が集まっている。
「認知症の約35%は予防可能な九つの要因により起こると考えられる。そのなかでは難聴が最大のリスク因子である」
認知症は現在の医学では根治することができないため、多くの人がその発症を予防したいと願っている。発表では、予防可能な要因が九つあり、難聴が9%と最も割合が多かった。脳の病気である認知症に、耳の聞こえ、聴力が要因になること自体が、意外なことだ。認知症と難聴の関係について詳細を見ていく前に、まず、「聞こえ」と「脳の働き」を知っておきたい。
慶応義塾大学耳鼻咽喉科教授の小川郁医師は「耳はとても小さな器官で、非常に精密であり、聴覚のメカニズムはとても複雑なのです」と話す。私たちが耳で聞く音、目で見るもの、肌にふれる感覚などの情報は、ひとつの神経から次の神経へと乗り換えながら脳の感覚中枢に伝わる。
「耳に入った音の情報は、耳から脳に届く間に7本の神経を乗り換えます。目は2本の神経を乗り換えるだけで脳に届くので、『聞く』ことは、それだけ複雑な経路をたどる働きといえるでしょう」(小川医師)
しかも、耳は休むことがない。耳は目のように閉じることができず、眠っている間も音は入るため、生まれてからずっと休まず働き続けていることになる。
耳に限らず、人間のからだは年齢と同じ年月働き続けており、加齢とともにその働きが衰えていくのは自然なことなのだ。