楽しむための条件が多すぎて、一度じゃ覚えきれねぇ……。しかも、この一蔵くんは「100キロオーバーの巨漢」「いつも身体がベタついている体質」「夏は常に水垢離をとっているかのような水浸しな発汗」「ムダな地声の大きさ」「かりん糖のような色黒さ」「いつもワーワー叫んでいる(基本、見え透いたヨイショ)」等の特異体質の持ち主で、彼が隣に居るだけで体感温度が7、8度上がりそう。

「何しろ今年は100回目ですよっ!!」。一蔵は唾液を撒き散らしながらプレゼンしてきました。「100回ってことは楽しさも100乗ってことですよっ!!」。その理屈はおかしい。決して「乗」にはならないだろうが。酔った勢いもあり「あ、6日7日なら空いてる」とスケジュール帳を開いてしまったのが運のつき。とにかく初めての甲子園に行ってきます。百聞は一見にしかず、生で観てからなんか言うことにしましょう。「兄さん! 細かいことは気にしないで、パーッと行きましょうっ! パーッと!!」。一蔵からさっきメールがきました。気になるに決まってるだろう……あの暑さだよ。今、地方大会のテレビ中継を観てますが、『高温注意情報』のテロップ出てる下で、バット振ってます。選手のみんなご自愛あれ。あ、俺も。

週刊朝日  2018年8月31日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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