“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、日銀の「長期金利の一定幅の動きを容認」決定を“ギブアップ宣言”とみる。
* * *
マーケットが動くとお尻がむずむずして、ディーラー時代が懐かしくなる。
ある時、「フジマキさん、マーケットに戻りたくないですか」と聞かれたので、「もういいですよ、いつか大損して個人破産、畳の上で死ねなくなりそうだから」と答えた。横で聞いていた落語家の林家木久蔵師匠いわく「あれ、フジマキさんのお宅、もともと畳なんかないじゃないですか」。
★ ★
日本銀行が7月31日の金融政策決定会合で、「長期金利の一定幅の動きを容認」すると決めた。実質的に、長期金利上昇を容認したことになる。
決定会合前から、長期金利は上昇圧力がかかっていた。当コラムで何度も書いたように、地域金融機関の経営悪化が問題化していたからだ。「異次元緩和継続はもう無理では」との思惑が、市場に広がっていた。
銀行の利益の根幹は本来、長短金利差。しかし、異次元緩和で長期金利が急低下し、金利差がなくなった。1980~90年代の米国S&L(貯蓄型の金融機関)危機の時、米連邦準備制度理事会(FRB)は長短金利差を開かせ、危機を乗り越えた。今の日銀は逆のことをしているから、銀行はたまらない。今回の決定は「長期金利の下げの容認」ではなく、金融機関救済のための「上昇の容認」だ。
一般的にはそのように理解されているが、私には容認というより「もはや長期金利を抑えきれない」とのギブアップ宣言に思えてならない。そもそも、日銀が長期金利をコントロールするなど、無理な話なのだ。
決定会合の前、日銀は長期金利上昇を抑えつけようと、7月23、27、30日と3回の国債の指し値オペをした。日銀が買い取り価格(利回り)を指定して応札を全額買い入れるオペレーションで、「奥の手」「非常手段」と言われる。
非常手段を何度も使う必要があるほど、長期金利上昇を抑えるのに苦労していた。日本経済新聞の7月28日付朝刊2面「動く金利 抑える日銀」で、日銀幹部が「長期金利を抑える緩和政策は、市場機能を人為的に抑制して成り立つ。ゆっくりと金利を調整するのは難しい」と述べているが、まさにそのとおりだ。