

寄席の楽屋で再放送も観る。寄席で私が13時上がりの出番のとき、出囃子が鳴ってもなかなか高座に現れないのはたぶん『半分、青い。』に夢中になっているから。
「松雪泰子みたいなお母さん欲しい……」と前座のたまり場でつぶやいては、後輩から気持ち悪がられる。「原田知世と谷原章介が夫婦なんて……ぐうの音も出ねえ……」などと、最前列のお客に聞こえない程度の小声で呟きながら袖から座布団まで歩いていく。どうかすると、落語の最中に「中村雅俊の仙吉爺ちゃんにはギターのレパートリーに『ふれあい』はあるのだろうか?」とか「やっぱり、つくし食堂は全労済に加入してるのか?」とか、考えたりして。もはや私の頭のなかの全部が『半分、青い。』。家内は初め「今回はそれほどでもないなー」などとバカにしていた。だが今ではほぼ2日に1回のペースで目に涙を浮かべている。少し前のツイッターの検索履歴には『りつまさ』『まさりつ』と謎の単語が残っていた。ヒロイン・スズメの幼なじみ・リツくん(佐藤健)と、その友人のまさとくん(中村倫也)のボーイズラブな関係を期待した同好の士のツイートを探ろうと、彼奴が検索をかけたようだ。いろんな見方があるものだ。後からハマったくせになんかズルい。
7月から物語は新シーズンに入った。漫画家を断念したスズメは100円ショップ大納言で働き始めた。新しい恋が始まった。新しいキャラクターがバシバシ出てくる。キムラ緑子や斎藤工をここまで温存するなんて。麻生祐未が謎の野鳥大好きオバさん役なんて。『帝都物語』の加藤保憲が100円ショップでレジ打っているなんて。まるでオールスター戦。観てない人には申し訳ないが、今回はズーッとこんなかんじです。すいません。
『半分、青い。』は半分終わり、残り半分になったわけだが、朝ドラに付きものの『ロス』が早くも私にやってきた。それは『「半分、青い。」の前半分ロス』。もう、前半分がかなり良すぎたので後半分が始まっているのに、なかなか気持ちが入っていかない。スズメが漫画家を続けていれば、どんな作品を描いたろう。本当に続けることはできなかったのか? いや、私もあのとき「諦めろ! 道は一つじゃない」と画面に向かって諭したが、果たして良かったのか……。
たしか、去年の今頃は『ひよっこ』にハマっていた。『ひよっこ』も最高だった。主人公はたしか……みね子だ。有村架純だったよね? 最終回のあとに『ひよっこロス』なんてあったかな……? すぐに『わろてんか』に切り替えて……たしか文句ばっか言いつつ観ていたな、『わろてんか』……松坂桃李の旦那役、なんて名前だったっけ……? この分だと私は『半分、青い。』のことも忘れ去ってしまうのか? いや、そんなことはない! 絶対に『「半分、青い。」ロス』がくるはず! ん? 秋からは『まんぷく』? 安藤サクラ? あー、楽しみ……いやいや! 誰だ! 余計なことを吹き込むのはっ!? 『半分、青い。』に集中させろ!!
おそらくこんな人間が朝ドラを支えているのだろう。まー、いいじゃないか! 朝ドラ万歳だ! 秋まで頑張れ、スズメ!!
※週刊朝日 2018年8月3日号