笹倉はかつて、ジェームス・テイラーのフィンガー・ギター・テクニック、ユニークなコード・プログレッションに心酔し、徹底的にコピーして分析した。バンドと一体化した巧妙で精緻な演奏、サウンド構成にもほれこみ、バンドでの演奏展開を目指していた。

 その目的にかなったのが、今回のメンバーたちというわけだ。岡田、谷口、増村の3人は、笹倉のギターの弾き語りに寄り添い、必要最小限のサポート・プレイで密度の濃いアンサンブルを生み出した。70年代のシンガー・ソングライターやポップ/ロックのセッション・プレイヤーの技をよみがえらせているのが心憎い。

 ジェームスのギター・テクニックや作曲、演奏展開を知り、オリジナル曲を目指した笹倉にとって、最大のテーマはメロディー、リズム、グルーヴと一体化した歌詞の“日本語のノリ”だった。岡田も谷口もかねて笹倉の『Rocking Chair Girl』を愛聴し、“日本でいちばん日本語が乗るシンガー・ソングライター”として笹倉の詩作を評価していた。

 アルバムの幕開け「晴耕雨読」でのメロディックでリズミックなギター・ワークは、笹倉のジェームスへの敬愛ぶりを示している。抑制の利いたサポート・メンバーの演奏、巧みに表現したサビのコーラスが印象深い。

「戻れない心」は、大瀧詠一・松本隆コンビの共作曲へのオマージュではないか。“うわの空”“冬枯れた日々”“終わりかけの季節”といった歌詞、笹倉の歌がそれをうかがわせる。岡田のギターが鈴木茂風でもある。

「はなれてゆく」は、細野晴臣のソロ初期曲へのオマージュと言えそうだ。笹倉は季節の移り変わりを背景に心情の変化を描いた曲を手がけてきたが、これもそのひとつ。“君”のことを知りえなかった切ない思いが歌われている。

 元“森”が手がけた2曲が続く。岡田、谷口の曲に増村が歌詞を書いた。いずれも“森”の3作目のアルバムに用意されていた曲だが、シリアスなアプローチによる2作目の呪縛から解き放たれたようにリラックス。OLD DAYS TAILORにとって幅広い音楽展開を予期させる。

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